【短編】化け物にさよならを!

こままのま!

化け物にさよならを!

吸血鬼。

みなさんはどのようなイメージが思い浮かぶでしょうか。恐ろしい、血を吸う、十字架やにんにくが苦手、日光を浴びると灰になる、etc…


殆どの方がこのように考えているのではないでしょうか。しかし、それは昔の話。現代の吸血鬼は進化しているのです!


恐ろしい尖頭歯はただの八重歯に

血は人間以外にチェンジ!

十字架やにんにくはあんまり見たくない程度

日光浴びても暑いなぁって感じるぐらい

筋力も昔と比べ十分の一以下に減衰…

え?退化?いえ、進化です!


そんな現代を生きる吸血鬼の私…(名前)の日常をあなたにお見せします!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「皐月ちゃんは本当に仕事遅いわねぇ…頼んでおいたあの書類まだ終わってないのかしら?」


「す…すみません!すぐ終わらせます!」


後ろの中年女性に話しかけられながら仕事をこなす。右手側には山積みの書類。左手側には冷めきったコーヒー。正面にはちょっと霞んで見えるモニター。


「そんなんだからその年になって結婚できてないんじゃないかしら?もう貴方の周りの人達なんて今頃子育てに励んでいるのでしょーね」


「あはは(お前の血全部吸ってやろうか?)」


私皐月桜さつきさくらは世間で言うところのブラック会社勤めです。残業50時間は当たり前、有給なんて絵に描いた餅。ていうか今日で何連勤目?


辞めて違う会社に転職すればいいじゃんって思われそうですが、どうしてもこの会社から離れられない理由があるんです。


「先輩…手伝いますよ」

「こ、後輩くん…!」


そう、彼です。彼のせいでやめられないんです。高身長、筋肉隆々、おっとりとした顔。まさにどストライクです。この世に生まれてきてくれてありがとう。そんな彼と会えるなら、こんなくそったれなでゴミクズな会社でも頑張ろうと思えるのです。


「ちょっと!私は皐月さんに頼んだのよ!」

「でも、この量は今日中じゃあ難しいですよ。定時も過ぎてますし」

「私が昔のときはね!苦労は買ってでもやるっていうのが当たり前で」

「では皐月先輩からその苦労を買わせてもらいますね」


そう堂々と言い放った後輩くん。それが怒りを買ったのかメガネをクイッとあげ唇を震わせる上司。そのでかでか逆三角メガネどこで売ってんだよ。ダサすぎるでしょ。


「…あっそう。好きにしたら?」


そう言うと老い先短いbba…上司は去っていった。てか、帰りやがった。仕事全部私たちに押し付けて。いつか絶対■■して、■■■■■!


それに比べて後輩くん本当にかっこよかったなぁ…。上司にいった「では皐月先輩からその苦労を買わせてもらいますね。あと先輩大好きです結婚しましょう」ってかっこよすぎるよぉ!

後半は言ってないかもしれないけど。式どこで開こっか?教会式、人前式、神前式どれがいいのかな…。私十字架あるとこでも大丈夫だよ。


「…ぱ…、…先輩、皐月先輩?」

「あ、ごめん。トリップしてた」

「トリップ?どこにですか(笑)」

どこ結婚式場がいい?」

「???」


私、待てる女だよ───☆


「ここらへんのプリント貰っていっても大丈夫ですか?」

「大丈夫ぅ…本当にありがとね」

「いいんですよ!」


そうして、二人の共同作業が始まった。ケーキ入刀より先にしちゃったね。そんなことを考えながらパソコンを打つ。普段は退屈で帰りたくなる作業だけども、この時間だけは永遠に続いて欲しいと思ってしまう。


カチカチと時計の針のみ聞こえる。本当は後輩くんと話したいけど手伝ってもらってる癖して話しかけるのはダメダメ。作業の邪魔になっちゃうもんね。


そうして3時間が経過して20時頃。


「おわったー!!」

「お疲れ様でした」

「超超助かったよぉ、今度なにか奢らせて!」

「いやいや当然のことをしたまでなんで、大丈夫ですよ」

「でも私がどうしてもお礼したいし、この後って予定とか〜」

「すみません…。交際して今日でちょうど5年目なんですよ。そのお祝いをとしたくて」

「そっかぁ、じゃあまた今度!絶対だよ!」

「はい、そのときは是非」


後輩くんには彼女がいる。そのことについてはかなり前から知っていた。初めて聞いた時は吐血してしまったぐらい辛かった。血は吐くのではなく吸う側なのに。


「(後輩くんの口から彼女って言葉、何度聞いてもつらいや)」


早く別れてほしい。けど、後輩くんの落ち込む姿も見たくない。本当にこの世界っていうのは理不尽なものだ。



「ただいま」


ケーキの入った白い宝箱を持って家に入る。挨拶はしたけども返事はない。けどそれは何時もどおりの当たり前。3年前はおかえりって聞けてたかも。


リビングのソファで寝転びながらスマホをいじっている彼女。その下にはお菓子の袋と食べかす。途中で畳むのを諦めたバスタオルが散乱していた。


その孤城を築き上げた彼女と目が合う。


「今日私疲れてるから食器洗っといて」


そんなことをいいながらシンクを指さす。朝と昼に彼女が使ったであろう食器たち。それらがカピカピになりながら待っていた。


「今日の当番って」

「言ったじゃん!私疲れてるって!」

「そ、そうだよね…」


とりあえずスーツを脱いでキッチンまで行き、食器たちに水を与える。そうしなきゃ汚れが落ちづらい。


「あ、今日ってさ付き合って5年目じゃん。だからケーキ買ってきたんだけど…」


これですこしでも機嫌が治ってほしいと思ってそう口にする。笑った顔を見して欲しい。


「そうだっけ?でもケーキ太るんだよね〜」

「確かにそうかもだけど…せっかく買ってきたんだし食べない?」

「私、ダイエット中なんだけど。本当にデリカシーないよね、アンタって」

「ご、ごめん」


謝って、謝って、謝って。


どうして私はいつもこうなのだろう。良かれと思ったことが空回りしてしまう。いつからだろうか彼女といて苦痛に感じ始めたのは。昔はもっと一緒にいたかった。だから同棲を初めたんだ。


だけど今は同じ家にいるのに、同じ家に住んでいなかった時よりも距離を感じてしまうんだ。


「つーか、今日遅くない?」

「えっと、上司の仕事を手伝ってて…」

「あー、前話してたあの吸血鬼の子ね。化け物の上に仕事もできないんだ(笑)」

「いや先輩が悪いんじゃなくって」

「えなに?」

「な、なんでもないです」


先輩の悪口を言われてしまった。それを取り消しまくってもできない自分。まるで自分も先輩に悪口を言ってるみたいだ。


「なんか最近異種族病に患ってるやつらが社会に出てきてるけどさぁ。気持ち悪くって仕方ないんだよね」

「そうかな…」

「そうだよ。人間みたいなフリしてさ、我が物顔で道歩いててほんと無理。家畜が服着て歩いてるもんだよ」


止まらない彼女の口。ただこういう考えを持つ

人たちは多い。


異種族病

ファンタジーの世界に出てくるモンスター達と似た特徴が先天的に現れる病。何処から来て、何故流行っているのかも不明。殆どは生まれてから成長するにつれ症状が進行する。あとからこの病にかかる事例はいままで確認されていない。これを人類の進化と語る者もいれば、呪い禁忌する者もいる。


「ほんと、滅んでくれないかな〜」

「そう…だね」


思ってないことを口にするのは本当に辛い。


「じゃ寝てくる」

「うん、おやすみ」


そう言ってお腹を掻きながら自分の部屋に戻る彼女。僕には彼女が■■■に見えてしまった。



「おはようございます」


朝礼の30分前に着く。上司より先につかないと給料を下げられてしまう。本当に嫌な会社だ。


「おはよう!後輩くん!」

「おはようございます、先輩」


彼女は皐月先輩。ちょっと頼りないところもあるが、僕の心の支えとなってくれている人だ。


誰よりも早く会社に着いて、誰よりも仕事を多くして、誰よりも遅く帰る。その姿は本当にかっこいい。


僕が転職せずにこの会社で頑張れているのは、先輩のおかげかもしれない。


「なんか顔色悪いね…。大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「力になることはできないかもしれないけど、相談なら何時でも乗るからね!」


トンと胸を叩く先輩。じゃあ…頼ってみようかな。


ーー

ーーー

ーーーー


「なるほど、最近彼女が冷たいと…」


後輩くんから悩みを聞く。体調が優れていないことは顔を見てすぐに分かった。伊達にそのお顔を覗き見してた訳じゃないぜ!


話を聞く限りその女が100%悪い。本当にゴミみたいなやつだ。別れたほうがいい。恋心を抜きにしてもそう思えるほどだ。


───けど、彼はその言葉は求めてないだろう。


だから私は慰めることしかできない。それがとても、とても、くやしい。この両手で抱きしめれたのならどれだけいいのだろうか。その憎しみを貴方となら分かち合いたい。





「んな彼女なんか別れてしまいなさいよ!」





おい、ババア!本当にデリカシーねぇな!

ノンデリ眼鏡!このしょぼしょぼ!

もっと空気を読んで発言しろよ。




「ふん。まだ、そこのへなちょこの方がましよ。別れてそっちと付き合ったら?」



え?


ばばあ…?


ばばあ…!


いや、先輩!!!


初めてお前がこの世にいてくれて良かったと思ったよ。その眼鏡イケてるな、今度どこに売ってたか教えてくれ。


こっちを向いてこそっとウインクする上司(神)


朝日に照らされた彼女の後光が眩しい。目の病気かな…アンタがヒーロー見えるんだ。


…今までこいつには散々絞られた。

けどこいつは私が吸血鬼であるにも関わらず、新人の頃から人間のように接してくれてたなぁ。


上司なりのコミュニケーションだったのかもしれないと今になって思う。不器用すぎない?


「せ、先輩と…ですか?」

「後輩くんがよければ私も──」


ついにこの恋が花開く…のか?



「はーい!朝礼をはじめるぞー!」



知ってた。


部長が層全体に声を掛ける。そのため会話が途切れてしまった。横で首を振る上司。


嗚呼…この世界はなんて理不尽なんだ。


けど一歩前進したかもしれないな。自分の恋が進むってこんな嬉しいことなんだ。


そう思いながら朝礼の話を右から左に流す彼女であった。


そして、朝礼が終わって仕事が始まる。今日は後輩くんは外回りのため会社内では会えないとても残念。今日は飲もう金のしゅわしゅわを。


そう思うとタイピングする指も少しは軽くなった気がする。


カタカタカタカタ─────。


「(終わったらお酒!終わったらお酒!)」


頭はおつまみのことで頭がいっぱい。

そのいっぱいの中ですら後輩くんが頭に浮かぶ。


「(本当は後輩くんと行きたかったなぁ)」


後輩くんは唐揚げが好き。家では油の処理が大変だから作らないと言っていた。家庭的な男性は魅力的に見えると聞くが、確かにその通りだ。休日にエプロンをつける後輩くんが妄想できる自分の脳みそが恐ろしい。


「(もし、別れてくれたならサシで飲めたりするのかな…も、もしかしてその先まであるのでは…!!!!)」


ふふふと声が漏れてしまう。後ろを歩いていた清掃員さんを驚かしてしまう。すまんて。



現在20時半。明日はおやすみ。


どういう意味か分かるか?


【祭り】ってことだよ!


「今日はどこで飲もうか…」


ガッツリの気分。どこのお店にしようかな〜。


お!ホルモン焼きいいじゃん。ホルモン山の井と書いた赤い看板が目に付く。店の雰囲気も最高。こんぐらい汚れてる店がうめぇんだ。


中に入ると結構な人数で埋まってた。ただこっちはお一人様。優先的に入ることができた。


べっとべとのお品書きを眺める。


「すみませーん」

「はいただいま!」


店員さんが元気な声で返事をくれる。

前のお客さんのオーダーを終えると小走りで来てくれた。好感が持てる。


「このスペシャル3種盛りと生ビール大ジョッキで!」

「かしこまりました!」


そう言って店員さんは厨房に入っていった。新人とタグに書いてあったがそうは見えない。彼は更に伸びしろがあるってことか…!


そんなことを考えているとある知っている名前が耳に入ってきた。


「最近あいつとはどうなのよ?」

「あぁ…──のこと?」


後輩くんの名前だ。


「あいつはただの家政婦件ATMだよー!」

「酷すぎw」

「え、でもあいつさぁ…昨日付き合って5周年だからケーキ買ってきた!って言っててマジウケたんだよねw高校生ですかー?みたいな!」

「かわいいじゃんw」

「あいつに言われてもなんも嬉しくないって!本命は君だけだもん」

「え、まじ?うれしーw」


あぁ…この店に入ったのは本当に良かったのかもしれない。


後輩くん。初めて君の助けになれることができるかもしれない。


「おまたせしま──ヒッ」

「あぁ…。ありがと」


私の顔を見て声にならない声を鳴らす店員さん。失礼だなぁ…。そんなをみたような悲鳴を上げるなんて。


ずっと彼女らの話似耳を澄ませる。

それを聞きながら食べるホルモンとお酒は人生で一番まずかった。


2時間が過ぎただろうか。


「そろそろ帰るか」

「えーもう?」

「あいつにバレちまうしな」

「もうバレてもいいんじゃね?」

「確かにw」


彼らが、会計を初めた。

私もそれに合わせて後ろに並ぶ。


「んでも、俺大学一限からあるし帰るわ」

「はぁーい」

「送ろうか?」

「いやパシリ使うよw」


そう言ってスマホを使う女。

後輩くんに連絡しているのかも。

急がないとな。


「じゃあな」

「じゃあねー!」


会計を終えて、外に出て別れの挨拶をしているのを自分の会計をしつつ目で追う。


ああ、そっちの道は助かる。人が少ないんだ。


「んふふっふ〜♪」


気持ち悪い鼻歌を歌いながら夜道を歩いている。悟れないよう、数メートル空けながら後を追う。


女は人気の少なそうな公園の中のベンチに腰掛けた。きっと後輩くんとの待ち合わせ場所だろう。


本当に都合がいい。


私も公園の中に入る。人がこの公園に入ってくるとは思っていなかったのか女は怯えた表情を作る。


「なんですか…?」

「こんばんは、いい夜ですね。」


気さくな挨拶から入る。みんなも■■前にはするでしょう?


「警察呼びますよ」


スマホを握りしめそう私に眼光を飛ばす。本当に弱そうだ。


「──くんの彼女ですよね」

「だからなに?」

「君みたいな人にはもったいなさすぎるなと思ったまでです」


そう言って口を開ける。

食事前のいただきますはさっきの挨拶で十分でしょう。


首を、噛む。


吸う。


じゅるじゅる。


初めて人の血を吸った。人の血は美味しいと聞くが、私にとっては豚の血の方が美味しく感じる。この女がまずいからかな?


「あ"あ"ア"ア"ア"ァa"a"a aーー!」


汚らしい声だ。味覚、視覚だけでなく聴覚まで汚される。本当に気持ち悪いな。


手や足の方から皮が余り始める。手だけ見ればもう老婆と変わらないだろう。


このまま吸い尽くして殺してしまおう。


そう思っていると車のランプが近くで道を照らしていることに気付いた。


警察かな。それならサイレン鳴らすと思うけど…。まあどうでもいいや。所詮に負けないよ。もちろん、昔の吸血鬼と比べては弱くなったかもしれないけど、少し弱体化したぐらいで遅れは取らないさ。


そう思いながら、後ろに意識していると私にとっては絶対に勝てない相手が来てしまった。


「せ、先輩…?!」

「あーあ」


さすがに後輩くんを手に掛けることはできない。


彼の姿を見た女は希望の光に見えただろう。最後の力を振り絞って助けを求める。


「た…たすけて!この化け物を引き剥がして!」



彼女からスマホに連絡が来た。住所と短いコメント。


『ここに迎えに来て』


仕事終わったばっかなのにな。と思いつつも迎えに行く。それぐらいしか彼女にできることはないから。


もしかしたら、帰りに一緒にお酒を飲めるかもしれない。そしたら、昨日の失敗も忘れてくれるかも…?


『別れなさいよ!』


先輩の先輩が僕に話した言葉が頭の中で反芻する。


「別れる…か」


独り言を呟く。その声は夜の街の匂いに包まれて消えてゆく。


都会のネオンが助手席を照らす。彼女がいつも座る場所。最近は、ずっとスマホをいじってたな。


──もし、先輩だったらどうだろう。


「後輩くん!あのお店すごくおいしそう!」

「ねこ!猫いたよ!さっき!」

「また今度いこうよ、あのお店。すごく楽しかった」


「って言ってくれるのかな…」


すこし目の前がぼやけてしまい、都会のネオンが丸く光る。決して涙ではない。だって頬が濡れないのだから。目に水を浮かばせるだけで涙というのはふさわしくない。


目的の人とは別の人を考えてしまっていたら、集合の場所に着く。


車を端に寄せ、彼女に声をかけようと車から降りで探す。そこにはなぜか先輩がいた。そのあとに彼女がいるのに気付いた。


「せ、先輩…?!」

「あーあ、ばれちゃった」


先輩が彼女の血を吸っている。とても、とても不味そうに。


「た、たふけて!」


彼女…いや■■■が泣き叫んでいる。


「後輩くん…ごめんね?勝手なことしちゃった」

「…」


唖然としてしまう。頭が熱くなる。目の前の非日常を見て困惑して、混乱して、狂ってしまう。だが、それを見ても■■■を助けたいとは思えない。


「これを処理したらさ、警察に自首しにいくから。だから───」


「なんでですか?」


ようやく頭が冷めた。そして、先輩の言葉に疑問に思う。だって、それはもう彼女じゃない。■■■──化け物だ。


ヨボヨボで助けてとしか喋れない化け物。

いやそうなる前から、ずっと前から化け物だったか。


「早くこの化け物を引き剥がして!!!」



化け物は君じゃないか


「先輩その化け物を殺したところでなんで警察に自首しなくては行けないんですか?」


「こ、後輩くん…化け物っていうのは彼女に言っているの?」

「?それ以外に化け物がこの近くにいるんですか?」


「なにをいっでるの!化け物はごいづでしょ!」


甲高い声でキーキーと本当にうるさい

まず自分の立場を考えてから喋ってくれ


「吸血鬼だからってこと?自分を客観視してみなよ。他人を軽蔑して、雑に使って、自分の事すら自分でできないやつが人間?血を吸うだけの先輩の方がよっぽど君より人間らしい」


らしいという表現は間違いだったかも。先輩は人間だ。


「ふふ、ふふふ!私のこと人間だと後輩くんは思ってくれるんだ!」

「ええ、もちろん。ですからさっさとお食事を終えちゃってください」


「だれか、助────」


そこで化け物の命は終えた。ベンチの下には赤い、赤い水たまり。そして残ってしまった臓器と皮。後でどこかに捨ててしまおうか。


「ごちそうさま!」


お口が真っ赤な彼女に差す月光には寂寥たる風情があってとても美しい。


「先輩、口元食べかすだらけですよ」

「えへへ」


もっていた白いハンカチで口を拭いてあげる。

そしたらモゴモゴと口を動かし始めたので一旦動きを止める。


「ねぇ、後輩くん…」

「なんでしょう」

「いまってフリー?」


上目遣いでそう話す先輩。赤い瞳が僕の奥まで覗かれているような気がする。だけど僕はその眼に魅入られてしまったのだ。


「もちろん。先ほどまで化け物は飼っていましたが」

「ほんと?!じゃあ付き合って欲しい、結婚を前提に!」

「是非。式は十字架のないところを選びましょうね」

「後輩くんのためなら十字架ぐらい耐えられるんだからー!!」








化け物はどっち?







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