第12話 聞かなければ良かった。3
旦那から聞いた話なんよ。
幽霊だのお化けだのが大嫌いな旦那の話だから、そういうのは出て来ないよ。
旦那の子どもの頃の話なんだけどね。旦那の父親――つまり私の義父ね――が、俗に所謂転勤族で。あっちゃこっちゃ引っ越してたらしい。そん時は大都市―――とまでは言わんけど、そこそこ大きな街の団地に住んでたんだって。
そこのご近所さんが、奥さん殺したんだ。
いや、あくまで噂だよって。表向きは首吊り自殺ってことで済んだんだからって。旦那が言ってる。
ただ根強い噂でね。
そのご近所さん、奥さんが浮気してて、以前から不仲だったんだってことも理由の一つだけど。
奥さんが亡くなった日、帰宅するご主人を、団地の踊り場で喋ってた奥様方が見てるんだけど。ご主人は警察官だったとかで、ヨレヨレの格好して帰って来たんだって。まあそうだよね。体酷使する、汗だくになってなんぼの仕事だもんね。
それがさ。
奥さんの死亡推定時刻じゃないかって時間に、部屋からスッて出てきたんだって。奥様方にもちゃんと会釈して。ビシッとしたスーツ姿で。
自分よく分かんないからさ、野暮なこと聞いたんだよ。
「それがなんで奥さん殺したことになるの?」
「分かんないかなあ。警察官にとってスーツって、武士にとっての裃みたいなもんなんだよ。特別な服なんだよ」
旦那の目が自分をじーっと見てさ、
「ご主人、自首する気だったんだろうって」
野暮なことは聞くもんじゃないね。
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