第11話 振り向かなければ良かった。後編

 たださ、田んぼの真ん中に人がいちゃマズいだろってのは、子ども心に分かったんだよ。稲が傷んじゃうって。だから祖父に、

「じいちゃんじいちゃん。田んぼに人がいる」

「どこに?そんなもんおらんぞ」


 本当だった。

 いなくなってた。

 夜風がざわって吹いて、稲が揺れた。


 田んぼの片側に街灯があって、田んぼの持ち主―――地主さんのお家に通じる道を照らしてたんだ。自分はわけ分からんからね。田んぼにいた人が、その道にいるんじゃないかと思って、そっちを見たんだよ。

 田んぼの真ん中から道まで、数メートルはあるからね。そんな一瞬で移動出来るわけないんだけどね。そんくらい混乱してたんだよ。

 

 道に人影なんかなかった。

 もう限界だった。怪訝そうな祖父に、もう帰ろう帰ろうって頼んで帰った。祖母は早かったねって言ったし、祖父は複雑そうな顔で黙ってたけど。

 自分は何も言いたくなかった。ただあの嫌な予感を無視しないで、なんか口実つけて出かけなければ良かったかなと思った。

 ……振り向かなければ良かったとも思ったね。

 

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