第10話 振り向かなければ良かった。前編
小学生の頃の話ね。
もうすぐ夏休みだねって時期だったからさ、なんかワクワクするよね。その日は両親とも帰り遅くて、祖父母と妹と自分だけだったから、いつもと違って余計ワクワクしてさ。
夕飯の片付けしてくれてた祖母が、近くの田んぼ、その用水路に蛍見に行っておいでよって言ってくれたの。祖父はまだ早いよって言ったけど、満更でもなさそうで。ワクワク最高潮だね。
自分と祖父と妹で出かけたんよ。
それがなんかおかしくてね。
自分は祖父大好きだったよ。なのになんか、嫌な予感したんだよね。背筋がゾクゾクするとは言わないけど、なんか重苦しくて気持ち悪いんだ。
でも祖父の気持ちに水差したくなかったからね。気のせいだと言い聞かせて出かけたんだよ。
気持ち悪さがひどくなったけど、祖父と並んで歩くのは楽しかった。他愛ない話しながら、田んぼに着いたんだよ。歩道の端に綺麗な用水路がサラサラって流れてて、その向こうに田んぼがある。
蛍はやっぱりいなかったよ。
まだ早かったね、もうちょっと歩いて帰ろうかって話になってさ。自分は祖父の方を向いてたんだけど、不意に背中の違和感が強くなったんだよ。
背後に人がいるのが確実、みたいな強さ。
んで田んぼを振り返ったんだ。
自分の腰の高さくらいの稲が並んでたんだけど、その田んぼの真ん中に黒い人影があった。俯いてこっちを向いてるみたいだった。
サラサラって用水路の音が、やけに大きく聞こえたな。
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