intermission2
公演時間をいっぱいまで使って私たちの舞台は終わった。割れんばかりの拍手を浴びながら緞帳が下がり切り、私以外の演者たちは歓声と悲鳴を上げながら舞台袖に引っ込んでいく。
熱気と歓喜をその身で受けつつ私こと朝宮優はこれまでの練習の日々や、努力の成果を噛み締めていた。
「朝宮先輩」
頭を下げたままで微動だにしない私に、信頼のおける後輩である一年の磯村朱未さんが話しかける。今回彼女はジャンヌの妹、カトリーヌ役で舞台入りしている。
「舞台は終わりました。すぐに次の部が準備に入りますので」
「……いた」
舞台の成功はもちろん嬉しい。だが私はもっと別のことでそれ以上の嬉しさに震えていた。
「いたって、先輩どこか怪我でも」
「違う、違うの磯村さん! いたの私が探してた人が!」
朱未さんは私の突然の興奮についていけず、呆気にとられるばかりだった。だが私は自分の幸運とこれまでの行いに感謝の声を上げていた。
「ご家族の方でも、いらしたんですか?」
「違うの! 彼がいたの! 以前磯村さんに話した中学卒業の後に公園で出会った彼!」
「朝宮先輩が以前にお話していた、男性の方ですか?」
「そう! しかも最前列! ていうかうちの高校にいたんです! 目が合った瞬間『なんで』とか『どうして』とかいろんなこといっぱい考えて、でもそれどころじゃないから我慢しきってどうにかこうにか演技できたけど、磯村さん! 今日の私、問題なかった? 演技変じゃなかった?」
「い、いつも通り、最高の演技だったかと」
「ありがとう!」
少し引き気味の朱未さんにハグまでして私は大声を上げて嬉しさを爆発させていたが、一つだけ許せないこともあった。
「そう、出会えたのは良かったけど、最前列で寝るってどういうこと⁉ しかも私に全く気付いてなかった! そりゃジャンヌになり切るために、金髪のウィッグとか甲冑とか着てたけど全くこれっぽっちも気付いていないとか! そんなことあります⁉」
「……今日はいつにも増して元気ですね先輩」
嬉しさから怒りに代わりかけた時、生徒会から「次の部の準備があるので!」と退場を余儀なくされた。
「こうなったら私から行くしかないですね」
「行くって、その男性にお話ししに行くんですか?」
「当然。それにこっちは借りっぱなしの服もあるし」
「中学から借りっぱなしでしたよね。それは早くお返しした方が良いです」
彼は名前すら教えてくれなかったけど、交わした言葉の端々から感じられた彼の優しさと、眼差しは忘れることができなかった。演技以外でこんなに鮮明な記憶として残るのは亡き父との思い出以来だ。
「磯村さん、今日の一般生徒の入場は二年だけだったはずよね?」
「はい。清臨祭では立ち見と席の予約を禁止にされているので、三日間の休みを学年ごとに割り振って観劇してもらってます。一昨日が三年、昨日が一年だったので今日生徒が観劇していたのなら二年生ですね」
清臨高校の生徒会は清臨祭開催中に大勢の人間が体育館の入場をすることを避けるため、在校生の入場の際に使われるチケットの色を変えている。一年は青、二年は緑、三年は赤という風にチケットに違いを出し、利用時間も制限することで混雑緩和を狙っている。
「同学年なら探しやすいわ。直接会うのもいいけど、彼に近しい人を見つけて話の場を設ける手も」
「会ってどうされるんですか? もしかするとその男性の方が忘れているかもしれませんよ」
「まず今日の舞台で居眠りしたことを問い質します」
「観劇してくれたこと自体は感謝されないんですね……」
少しだけ後輩の残念な溜め息を感じたが、それは仕方がないことなのだ。
だって、あの時の気持ちをそのまま抱えて私が今ここにいることを、彼に少しでも悟らせたくなかったから。
あなたのおかげで、あの時の悲しみから立ち直る勇気が得られたと。
あなたのおかげで、前を向いて夢を追いかけ続けられるようになったと。
あなたのおかげで、今の私があるんだと。
「絶対、逃がしてあげないんだから名無しの権兵衛君!」
「先輩って時たま古い言葉知ってますよね?」
「これって古いんですか⁉」
運命という言葉を
何故かと問われるなら、全ての事柄が別の何かによって決められているように思えてならないから。
どんな努力も、思いも、行動も全て決まっていてはどれだけ足掻いても虚しくなる。最初から全部結果が出ているなら、何をしても無駄になってしまう。それがたとえ成功に繋がっていても。
でも、人と人との出会いは運命と感じる時がある。どんな努力も、思いも、行動も出会いまでは全てが誰かの力の及ぶ範囲ではないからだ。
例えば
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