第20話 We are (not) Alone-3rd
喫茶店を出て明が向かったのは私たちが通う清臨高校。通用門は当然閉まっていたが、裏門に回ってみると中から施錠されているはずの鍵が開いていた。校舎に入り、ただついて行くだけの状況だった私だが、その歩みは徐々にもたついて行く。
「ちょっと、どこまで行くのよ?」
「もうすぐだ」
さっきから明はその言葉ばかりで、具体的にどこに向かおうとしているのか言おうとしない。
でも私にはわかり始めていた。明が私に何を見せて、何をさせようとしているのか。
「到着。って言ってもお前には見慣れた風景だろ」
そこは普段陸上部の生徒が使うグラウンドだった。昨年に陸上部専用のトラックを設営されてからは、他の部に気兼ねなく走ることができると知った時は飛び上がるほど嬉しかったのを思い出す。
「こんなところに来て何をするつもり」
「走る」
そういうと、明はスタートラインに立つ。
「ここまで来て何をするって聞くのは野暮だろ? 陸上部員がいてトラックがあるんだから走るに決まってる。勝負と行こうぜ」
明は屈伸運動をしていつでもスタートが可能な状態になる。
「走らないわよ、私は」
「なんだよ、負けるのが怖いのか?」
わかりやす過ぎる挑発に私は肩を震わせる。
「いくら私が練習をサボって夜遊びしてたからって、今まで激しい運動をしてこなかったあんたと走ったって勝負は目に見えてるって言ってんのよ。そもそもここであんたと勝負する意味が」
「俺が勝ったらお前のお望み通り親にも学校にも今回のことを言いふらす。お前は構わないと言っていたがばれたら間違いなく学校は居づらくなるだろうし、最悪転校だってある」
どうやら明はどうあっても私と勝負がしたいようだ。
どんな結果になるかも明自身理解しているに違いないのに。
「その代わり、そっちが勝ったら今回のことは忘れてやるよ。ちなみに鈴子が火遊びしてたことはここまで誰にも言ってない。お前とかけっこで勝負するためにとっておいたんだ」
「信じるしかなさそうね。あんたが黙ってなければ私は今日のうちに学校側にあれこれ言われてただろうし」
私は制服の上着をその場に脱ぎ捨ててスタート位置に着き、クラウチングスタートの構えを取る。久しく構えて来なかったけど、大地に手を添える感覚は私の在り方みたいなものにしっくりくる。
「ピストルはないから、携帯をピストル代わりにする」
「えらく本格的にやるのね。ただの遊びでしょ?」
「遊びだからこそだろ? 後で不正がどうのこうのと言われないように」
すると明は自身の携帯を操作して誰かと話し始めた。
「ちょっと、電話相手にピストル役をしてもらうの?」
「大丈夫。通話してる相手には自分のタイミングでスタートを切るよう言ってる。タイマーだと俺が細工してると誤解されるからこれならフェアだろ?」
「……驚きね。あんたの身近にこんな時間に電話をかけて、なおかつこんな茶番に付き合ってくれる友だちがいたんだ? といっても傾先生なんだろうけど」
「余計なことを言わなくていい。じゃあ行くぞ」
明は携帯を地面に置き、自身もクラウチングスタートの構えを取る。
「……後悔するわよ」
「もう散々したから、これ以上後悔しないようにするために走るんだ」
拡散された声に意識を向け『位置について、ようい』という声に私は集中する。
『ドン!』
強く綺麗なかけ声に合わせて、私は駆け出した。
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