それを聞き、花音は心の中で叫ぶ。



(鬼っ!!悪魔っ!!人でなしぃーっっ!!!)



しかし実際には、



「………。」



叫ぶ元気も無く黙り込んでいた。


ばあやは扇子を開いて顔を隠すと、駕籠に顔を寄せて、より一層 小さな声で囁く。



「ですが、今は貴女が『お夏』様です。


責任を持って私も城に参り、最期まで お側にお仕え致します。」



「…本当に?」



「はい。勿論でございます。」



ばあやの言葉を聞いて、少しだけ安心した。


全く知らない場所で一人で生活するなんて、とても無理。

それも時代の違う場所では尚更だ。



(そもそも ここ、なに時代なんだろう?


城とか殿とかって言ってるから江戸時代かな?

…戦国じゃなければ良いけど…。


いっそ、夢オチであって欲しい…。)



考え込む花音に、ばあやがボソッと呟く。



「あとは あなた様が、早速 今宵から殿のご寵愛を受けて、お世継ぎを産んでくだされば、言う事無しでございます。」



「えっ!?」



花音の顔が一気に青ざめる。



(今宵?寵愛?お世継ぎ?


それって…つまり…今晩、殿様に抱……!)



想像した花音の顔が、今度は一気に赤くなった。



(む、無理無理無理無理っ!!だって、顔も知らないんだよ!?


相手がどんな人かも知らないのに、デートとかも全く無しで、会ったその日に……なんてっ!


それに私、キスだってした事ないのに、いきなり過ぎるでしょっ!

大人の階段、何段飛ばしで登らせるつもり!?)



もはやパニック状態の花音だが、駕籠の外にいる ばあやは気付かない。



「くれぐれも、『お夏様』として、振る舞ってくださいませ。


すり替わった別人と知れれば、あなた様も、お夏様も、只では済みませぬ。」



「あ!そっか…!」



(誰にもバレちゃいけないんだ!


って事は、私は この時代の人になりきって、

でもって お夏さんになりきらなくちゃいけないんだ…!


うわぁ~、大丈夫かなぁ?

もしかして私、簡単に引き受けちゃいけない事、引き受けちゃった…?)



しかし、引き受けてしまったのだから仕方ない。



(お夏さんの為に頑張らなきゃ!

もしかしたら、それが沙織の為になるかもしれないんだし!)

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