「ありがとうございました。このご恩は、一生忘れません。」



「いいえ、どういたしまして。

2人共お幸せに…!」



花音も頭を下げる。

お夏は、ばあやにも頭を下げた。



「ばあや、今までありがとう。…花音さんの事を お願いね。」



「承知致しました。

ばあやは お夏様の幸せを、いつも、いつまでも願っております。」



恭しく お辞儀をした ばあやは、花音を連れて外に出た。

そこにあった駕籠に乗り、揺られながら宿を離れる。



(お夏さんと一鉄さんが、上手くいきますように…!)



狭い駕籠の中で花音は そう祈った。



(…にしても、窮屈~!昔の人って、こんなのに乗ってたの?


畳が敷いてあるけど、横になれないし、やたら揺れるし、なんか…酔いそう…)



そんな風に思っていたら、本当に気分が悪くなってきた。

そんなとき、外から ばあやが囁く。



「お夏様の身代わりに、城に入る事になりますが…本当に よろしいのですか?」



「もちろんです!お夏さんに幸せになって貰いたいですから。」



花音がそう答えると、



「そうですか。…それは安心致しました。」



ばあやの声が少し明るくなる。



「…?…安心…?」



どこか含みのある ばあやの声に、花音が首を傾げた。ばあやは しれっと言う。



「…竹代城主は、江戸城の大奥を模した屋敷を建て、何人もの側室を住まわせ、昼でも夜でも、酒色に溺れていると噂のお方。


そんな方に嫁ぐなんて、お夏様があまりに不憫と思っておりましたが、代わりが見つかって良ぅございました。」



「…えっ…!?」



(そんなの聞いてない!!!


お殿様って言うから、ちゃんとした人なんだと勝手に思ってたけど、昼でも夜でも酒色に溺れるって?


酒って…お酒よね?それはまだ、いいとしても…色って…?


っていうか、大奥って言った?何人もの側室って言った!?


それって、女同士のドロドロとした争いが起こる感じがするんだけど、私、そこに行くの!?)



花音は、駕籠の揺れで気分が悪くなっていたのに、ばあやの話で ますます気分が悪くなった。



「…知ってて、言わずにいたんですか?」



「はい。お夏様の幸せを思って、ばあやは心を鬼にさせていただきました。」

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