ばあやは、抱き合う一鉄と お夏の側に寄り、座る。


それから暫く お夏の瞳を見つめた後、花音に顔を向けた。



「…ですが、私も決心致しました。」



そう言って頭を下げる。



「私からのお願いでございます。

お夏様の…身代わりになってくださいませ!」



「っ!!…はい、任せてください!」



花音は瞳を輝かせ、胸を張ってそう答えた。



「良いのですか?」



お夏が心配そうに尋ねてきたが、花音は胸を叩く。



「はい、もちろんです!

その代わり、お夏さんは酒巻さんと幸せにならないとダメですよ?」



「花音さん…」



瞳を潤ませる お夏の肩を、一鉄が強く抱きしめる。



「必ず、私が幸せにすると約束します。」



それを聞いて、花音は満足そうに頷く。



「それなら安心です!

この後どうするかは、今すぐ話し合いましょう!」



花音の提案で4人は話し合った。


その結果、

お夏と一鉄は宿の裏から脱出。


それと同じタイミングで、

花嫁衣装をまとった花音と ばあやが、表から出て駕籠に乗り、城へ向かう事になった。



「けれど…本当に…よいのですか?」



お夏は何度も何度も そう尋ねてきたが、その度に花音は首を縦に振る。



「気にしないでください。

お夏さんは私の命の恩人だし、なにより私の親友に似てるんです。


だから お夏さんには、どうしても幸せになってもらいたいんです。

私に任せてください!」



花音は笑い、お夏が着る筈だった、婚礼用の色打ち掛けに袖を通す。


さすがは呉服問屋の婚礼衣装。

鮮やかで触り心地の良い赤い布地に、金糸や銀糸で、梅や鳳凰などの刺繍が施されている。


素人目にも分かるような豪華さだ。


それから髪を結い、化粧もした。

白粉を塗りたくられ、真っ赤な紅を引く。



「……!!」



鏡を見た花音が驚く程、鏡に映る自分の姿は別人だった。



「それでは参りましょうか。」



ばあやに促され、花音は宿の表へ向かう。そんな花音に、お夏と一鉄が頭を下げた。

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