「そんな事…出来ません!」
首を振って声を上げる お夏に、花音は言い聞かせる。
「相手の人の顔、知らないんでしょ?
それなら向こうも、お夏さんの顔を知らないはずです!きっと入れ代わっても大丈夫ですよ!」
「そ、それは、そうかもしれませんが…
今日初めて お会いした人に、そんな事をお願いする訳には…」
視線を逸らし、俯く お夏を余所に、花音は外に向かって、
「その酒巻さんを呼んでください。」
と言った。お夏が動揺する。
「花音さんっ!?」
「お夏さん、聞かせてください!酒巻さんの事をどう思っているのか。
家がどうとか父親がどうとか、一切抜きで!」
強い口調でそう言われ、お夏は間髪入れずに叫ぶ。
「っ!好きですっっ!!!」
「…お夏様…。」
ばあや は目を丸くした。花音は優しく微笑む。
「好きで好きで、夢にまで見る程です。
それくらい…私は酒巻様が…一鉄様が愛しい…!」
お夏は そう言いながら涙を流し、ついに膝から崩れ落ちた。
それを、入ってきた若い男が抱き留める。
「…お夏…私も好きだ。
今日、ここへ来たのは他でもない。殿様に追われる事になっても構わない!
私と逃げてくれないか?」
一鉄がそう言ったのを聞いて、花音は手を叩いた。
「決まりっ!…ばあやさん、いいですよね?」
花音、お夏、一鉄の、3人に見つめられ、ばあや は眉を寄せる。
「…もし、嫁がれたのが お夏様ではないと知れたら、殿様はお怒りになり、お父上の呉服問屋との取引を止めるでしょう。」
「それは…」
(そうだけど…、それでも お夏さんには、一鉄さんと一緒になって欲しい…!
もしかしたら沙織が産まれなくなっちゃうかもしれないし!)
口を真一文字にした花音は、ばあや を見つめながら唇を噛む。
お夏は息を止め、ばあやの言葉を待った。
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