(でも、なんで!?なんでタイムスリップしたの!?っていうか、本当にタイムスリップ?

夢…かな?)



花音は混乱していたが、お夏に連れられるまま、宿らしき建物の二階に入った。


六畳の小さな部屋だが、桔梗の描かれた掛軸が飾られている。


濡れた制服を乾かす為、ばあや に手伝ってもらい、花音は着物に着替えた。


同じように着替えた お夏が、花音の側に座り頭を下げる。



「改めまして、私は夏と申します。」



それを見た花音も、慌てて頭を下げた。



「わ、私は花音と申します!」



「花音さん…ですか。変わった お名前ですね。


お着物も変わっていましたし、お荷物も見た事の無いものでした。」



「そ、そうですか?」



(普通の県立高校の制服と、学校指定の鞄なんだけど…?)



そう思いながら花音は苦笑い。すると お夏が、



「…ところで、花音さんは どうしてあの川に?


私の見間違いでなければ、天から落ちてきたような気がするのですが…」



と尋ねてきたので、花音は戸惑う。



(えっと…なんて説明したらいいの?


っていうか、私、

本当に、本っっ当にタイムスリップしちゃったのかな…?


いや、しちゃってるよね、これ。なんでか分かんないけど…。)



困った花音は、正直に ありのままを話す事にした。



「…私にも よく分からないんですけど、気がついたら あの川に落ちてて…」



「そうでしたか…。」



「お夏さんは、どうしてあの川に?」



花音が尋ねると、お夏は少しだけ哀しそうな顔をして俯く。



「私は…お嫁に行く途中だったんです。」



「お嫁に?」



(それって、結婚するって事だよね?…でも、どうして哀しそうなの?)



花音は俯く お夏を見、ハッとして頭を下げた。



「ご、ごめんなさい!私のせいで着物が濡れちゃったから…!」



「え?…あ!いいえ、それは大丈夫です。

元々ここで婚礼衣装に着替える手筈でしたから。


…それに…、本当は…その着物も濡らしてしまいたいくらいで…」



お夏は苦しそうに、着物の裾をぎゅっと掴む。



「…お夏様…。」



ばあや は心配そうに、お夏の肩に手を置いた。



(…もしかして、結婚 嫌なのかな…?)



眉を寄せて、花音は お夏を見つめる。

お夏は視線に気付き、小さな声で話し始めた。

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