訳が分からないまま、



「…うっ…!」



花音は、その男によって無理矢理 地面に組み伏せられた。



(なんなの!?なんで私がこんな目に!?

ここは、どこなの!?あれは沙織じゃないの!?)



花音は地面に顔を押し付けられたままパニックになる。


それを助けたのは、またしても沙織に似た女性だった。



「その方を離してください!


ばあや、着付けをする宿は この近くのはず。この方も一緒に連れて行きます。」



それを聞き、ばあやと呼ばれた渋い茶色の着物を着た老婆は驚いて声を荒げる。



「なりません、お夏様!素性の分からぬ者を連れてゆくなんて!」



花音を助けた人は、どうやら お夏という名前らしい。



「ばあや。私は この藩の殿様の妻になるのですよ?その私が そうしたいと望むのに、逆らうのですか?」



お夏は強い口調で命令する。ばあや は渋々従った。


押さえつけられていた手が離れ、花音は上体を起こす。



(…助かった…!)



ホッとした花音の前に、お夏が手を差し出す。



「さ、私と一緒に、こちらへ。濡れたお召し物を着替えましょう。」



お夏に促され、花音は立ち上がる。



「…えっ!?」



そのまま唖然とし、立ち尽くした。


道はアスファルトではなく、砂や土で、道行く人は皆、着物。


髷(まげ)を結っていたり、簪(かんざし)を挿していたりする男女が、珍獣を見るような目で花音を見ていた。


町の建物は どれも木造で、遠くに城も見える。



(ま、まさか…、これって もしかして、タイムスリップってやつ…!?!?)



花音は ここでやっと、自分のおかれた状況を理解した。

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