沙織に気合いを注入されて、少し元気が出た花音は、母と どんな風に話をするか、沙織とシミュレーションした。


その後 集合時間になって、



「はい、出席取るから、集合ー!」



と先生が生徒を集める。


館内での注意や、帰りの集合時間などを説明され、再び解散になった。

自由行動なので、沙織と2人で館内を回る。


すると沙織が、



「ねぇ、ここの展示は何度も見てるしさ、見て回ったつもりでトランプでもしない?持ってるでしょ?」



と言い出した。



「…うん、まぁ、持ってるけど…」



花音は自分の鞄を探り、トランプを取り出す。


休み時間の暇潰しに友人達とババ抜きや大富豪をする為にいつも持ち歩いている物だ。


けれど花音は小さく笑い、すぐにトランプを仕舞う。



「今日はダメ!」



「え~、なんで?」



沙織が口を尖らせる。

花音は、両腰に手を当てて言った。



「自分の故郷の事だから、ちゃんと勉強しないと!」



すると沙織が、にっこり笑う。



「…って、言われたのね?

恩愛寺(おんあいじ)の住職さんに。」



言われた花音は苦笑しながら頷く。


恩愛寺というのは、花音の祖父の寺の事だ。


酒巻家は恩愛寺の檀家なので、沙織も花音の祖父の事を よく知っていた。


小学生の頃、寺の境内にある、少し変わった台形の石と、その隣にあるケヤキの御神木に2人で登って遊んでいたのが見つかり、揃って祖父に こっぴどく怒られた記憶がある。


だからなのか、沙織にとっても花音の祖父の存在は大きかった。



「姫のお祖父さんに言われちゃったら、真面目に勉強しないとだね。


このお城の城主、千曲(ちくま)家って、なんかいろいろあったみたいだよ!

クーデターとか、後継者争いとか、毒殺未遂とか!


ちゃんと勉強したら、昼ドラみたいな展開があるかも!」



「え~、なんか目的ずれてない?」



「いいじゃん!そっちの方が きっと楽しいよ!」



ニヤリと笑った沙織は、ふと時計を見た。



「あ!もうちょっとで日食始まるね!」



「え?日食?」

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