博物館に着いて自転車から降りると、風で乱れた制服のブラウスと紅色のリボンを調える。


それから、変に折れていた紺と茶のチェック柄のスカートを直した。


すると、



「姫っ!おはよっ!」



自分に向かって、クラスメイトの酒巻 沙織(さかまき さおり)が元気に手を振っているのが見えた。


『姫』というのは花音のアダ名である。

沙織も本音で話せる相手のひとりだった。


夏に引退するまでテニス部の部長だった事もあり、ハキハキとした行動派。


奥二重の花音と違って、パッチリ二重の瞳が、沙織に より一層、意志の強そうな印象を与えている。


花音は帰宅部だったので、沙織の事を尊敬しているし、憧れてもいた。


沙織は、沙織で、普段はおとなしいが、困っている人を見ると率先して助けに入る花音を信頼し、尊敬している。


ときに真逆と称される二人だが、お互いに認め合う、唯一無二の親友だ。



沙織は、肩までの髪を退屈そうに弄りながら口を尖らせる。



「にしても、なんで今さら博物館見学するのかな~?小学校でも、中学校でも行ってるって!」



そんな沙織に花音は笑う。



「それ、私も思った。」



「でしょ!?

この市内の子は、皆そう思ってるって!」



腰に手を当てた沙織は、見慣れた博物館のロビーを見渡す。


奥の展示室には、縄文時代から近代に至るまでの様々な品物が展示してある。


それらを見てレポートをまとめるのが今回の課題だ。



「…ところでさ、専門に行きたいって親に言ってみた?」



沙織にそう聞かれ、花音は俯く。



「言ったんだけどね…。」



その様子を見て沙織は苦笑い。



「駄目…って言われちゃったんだ。」



「うん。


…願書の提出は来月だから、それまでに なんとかしないとって思うんだけど、詳しい事とか、なんにも聞かずに否定されちゃって…。」



「う~ん、まずは ゆっくり話をする時間が必要みたいね。服飾デザイン系の学校に行きたいって事、改めて話さなきゃ!」



「…うん。帰ったら…頑張る!」



「おぉ!その意気だよ!」



花音が拳を握るのを見て、沙織が背中を叩いた。

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