その日は課外授業の日で、県の博物館を見学する事になっていた。
博物館は花音の家と同じ市内にあり、近いので現地集合、現地解散だ。
かつては そこに城があったらしく、堀に囲まれた石垣の上に その博物館はある。
(小学校でも、中学校でも行ってるのに、なんで高校でも行くんだろう?
…ちょっと めんどくさいな。)
決して口には出さなかったが、そんな不満を抱きながら自転車を漕いでいたら、博物館への通り道に立つ寺の住職が花音に話し掛けてきた。
「おやおや、学校は反対方向だろう?サボりかね?」
花音は自転車を止め、肩をすくめる。
「違うよ、おじいちゃん!
今日は博物館見学なの。
そもそも私が学校サボった事ないの、知ってるでしょ?」
「おぉ、おぉ、よく知っとるとも。
花音は真面目で可愛い、わしの孫じゃ!」
ただでさえ細い目を、さらに細めて笑った住職は花音の祖父だ。
花音にとっては、本音を話せる数少ない人物の一人。
「あの博物館は、何度も行って飽き飽きしとるかもしれんが、自分の故郷の事じゃ。
よくよく学んでくるんじゃよ。」
祖父にそう言われ、花音は素直に受け止めて頷いた。
「…そっか…うん、行ってきます!」
「おぉ、気をつけてな!」
花音は手を振り、再び自転車を漕ぎ出す。
(お母さんの言う事は素直に聞けないけど、
おじいちゃんの言う事は、なんだか説得力がある気がするから不思議。)
祖父は、仏教だけでなく、論語にも精通していて、おじいちゃんっ子の花音は、幼い頃から そんな祖父の話をよく聞いていた。
善い行いをするように心掛けて、損得抜きで人の役に立てる、徳の高い人になるように
という祖父の薫陶(くんとう:人徳や品位で人を感化し、良い方へ導く事)を受けて育った事は、
困っている人を放っておけない、花音の性格に表れている。
(おじいちゃんも そう言ってるし、面倒だけど早く帰れる訳だし、頑張ろう!)
少しだけポジティブな気持ちになって、花音は博物館に向かった。
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