不機嫌な朝
この日の朝まで、
姫野 花音は間違いなく普通の女子高生だった。
信州と呼ばれる地方の とある街、竹代(たけしろ)市の公立高校生。
強い意思はあるのだが、内気で他人に本音をなかなか言えず、見た目も大人しそうな高校3年生。
そんな花音が、今朝 思い切って母親に言った。
「お母さん、私…専門学校に行きたい…!」
それなのに…
「何言ってるの!?専門学校なんて駄目よ!
お兄ちゃんみたいに大学に行った方が、就職に有利なんだから!
短大でもいいから大学に行きなさい!お姉ちゃんなんだから、弟と妹の手本にならなきゃ!」
と、バッサリ切り捨てられてしまった。
確かに花音の兄は、大学4年生で成績優秀、同期生が苦戦する中あっさりと就職内定を貰い、残りの学生生活を謳歌している。
母の言いたい事は分からなくもなかった。
弟が生まれてからの10年以上、良い手本となるように、良い事は良い、悪い事は悪いと判断して、良い事だけをするようにしてきた。
それに関しては、無理に そうさせられていた訳ではなく、自ら進んでやってきたので後悔はしていない。
むしろ達成感があるくらいだ。
父親は海外に単身赴任中で、一人で家を支えている母親を困らせたり、我が儘を言う事も無く、黙って従ってきた。
しかし、今回の事は納得がいかない。
(どんな専門学校に、どうして行きたいのかくらい、聞いてからでもいいじゃない!
大学行ったって就職出来ない人もいるし、そもそも私は お兄ちゃんとは違う!)
そう思った花音だったが、時間が無かったのと、母を説得する自信が無かったのとで、
「…行ってきます。」
と恨めしく母を見ながら家を出る。
「ちょっと、花音!言いたい事があるのなら、ちゃんと言いなさい!」
母のそんな声が聞こえていたが、返事をしなかった。
(言ったって、聞いてくれないじゃない!
…って、思った通りに強く言えたらなぁ…。)
まだ残暑の厳しい9月の頭。蝉が煩いくらいに鳴いている。
花音は、肩甲骨の下まで伸びた黒髪をゴムで結ぶと、自転車に飛び乗った。
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