三話
川原は頭をかもちゃんの机の上に差し出し、撫でるように強要する。かもちゃんは、一瞬私を見てからふにゃりと笑い、川原の硬そうな髪を撫でた。
頭を撫でられ破顔した川原は見るに堪えないので、なんとなく隣の瀬尾を見ると、柔らかな微笑みを浮かべていた。
「何?」
「スッキリした?」
「…まあね。顔面ランキングと足を踏んだ件は、水に流してやることにした」
「さすがだね。足の速さじゃ勝てないから勝負して、相手が油断したところを狙うなんて」
「……」
「スポーツマンの彼だったら、勝負に乗らないなんてことはないだろうし」
「……」
「月奈に、興味は尽きないね」
「はいはい、どーも」
「ちょっと。真面目に聞いてよ」
「あんたなんて、聞き流すくらいがちょうどいいから」
高校に入学してまだ一週間。桜が散り、遠慮がちに葉がつき始めた頃、人や建物の上には空が雄大に広がっていて、降り注ぐ日差しが温かさを分け与えてくれる。風に運ばれた花の香り、土の匂いに春を感じ、新しい制服や体操着、上履きのゴム匂いに背筋が伸びた。
世界からしたら、この高校もちっぽけな箱のようで、狭いコミュニティの空間にはまだ緊張感が漂い、フレッシュさも残る中、この男だけは違う印象を抱いた。
初日に出会ったのは、かもちゃんも川原も瀬尾も一緒だけど、瀬尾はまるで中学から知っていたような近い距離感で、しかも居心地は悪くない不思議な人だった。
「かもてゃん! あの男女野郎がね」
制服は、女らしさの象徴であるスカートではなく、ズボンを履いている変わり者の私でも「似合ってるね。スカートでも、ズボンでも、両方とも似合いそうだね」なんて言ってくれた。そして、ショートカットの髪も、リボンじゃなく首に引っ掛けたネクタイも、褒めてくれた。
男女野郎と抜かす、川原とは大違いだった。
「顔面ランキングだけどさ、気にすることないよ」
かもちゃんと川原のやりとりを眺めながら、瀬尾は言った。薄い唇が、私のために動く。
「気にしてないよ」
「実際、性格の良い子って聞いた時と悪い子って聞いた時の外見評価って変わるらしいから。知らず知らずのうちに、影響してるのかもしれないね」
「詳しいね?」
「たまたまそういう記事を見ただけ」
「ふ〜ん?」
「それを踏まえてもう一度言うね?」
「……」
「俺は月奈が一番だと思うよ?」
「……」
呆れた。私のどこを見て、性格の良い子だと思ってると言うのだ。瀬尾は悪い人ではない。だけど、深入りしないつもりだ。
「きゃ〜、
女子生徒が目をハートにしながら、廊下に集まる。ここからでは全く見えないけど、
「じゃあ、そろそろ教室戻るね」
瀬尾がウインクをして、片手をゆるく振る。私は、思い出したように「あ」と声を上げると、瀬尾は私を注視した。
「私は、瀬尾が一番だと思うよ?」
ポカンとした瀬尾に背を向けると、自分の席についた。村坂はチャイムが鳴るギリギリに来る。目の前に広がるたくさんの机と椅子、制服を着た生徒と黒板と教卓。
ーーキンコンカンコン
今日も、
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