第11話『交通の便はよくなったが……』

──江戸時代。


「殿、また参勤交代の時期がやって参りましたが……だるぅございますなぁ」

 と、物書きの男が愚痴る。


「ああ。だるいのなんの。そちの『えすえふ』みたく、敏速な車が、あればええのう」

 と、殿は絵空事をのたまう。


「殿、あと二百も年を越せば、そのような車も、姿を現すでしょう」


「二百? 愚か者め。わしは不老不死の化け物ではないわ!」


「「あははははは」」



 🚗🚃🚄✈️



──二百年後。


 日の本には……


 車が走る。

 電車が走る。

 新幹線が走る。

 飛行機が飛ぶ。


 人々は、それら長距離の交通手段を用いて、少数の大都市に集結した。


 『地方都市』などという言葉ができた。


 地方都市は、若者を大都市に吸い取られ、やがて過疎化した。


 過疎化した地方の人々は老いた。


 地方には腰の曲がった老人だけが残った。


 老人は屍となった。


 屍も風の前に散った。


 地方は風化した。


 大都市には人が溢れ、初めは賑わった。


 しかし人に対して土地が少ない。


 大都市には、初めは物も集まった。


 物は人と同じく地方からやってきた。


 やがて地方からは人も物もやってこなくなった。


 大都市には物も土地もないが、人は多い。


 人々は困った。


 飢えた。


 争った。


 減った。


 誰もいなくなった。


 都市は風化した。


 やがて文明の痕跡は……


 消えた。


 


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