第9話『時を操る子ども』

 親子が病院に来た。


 子は、物心がついてから、初めての病院だ。


 「あーっ!!」


 子供が叫ぶ。


 来院者たちを、指差して。


 そして続けて、こんなことを言う。


 「こっちも! そっちも! あっちも! どっちも! タイムぅー!」


 すると親が、恥ずかしそうな顔をして、


「何言ってるのぉ。すいません、うちの子騒いじゃって……こら! 病院では静かにしなさい!」


 子の発した言葉の意味を、理解していない様子の、親。


「あ! でもこのおにいちゃんはタイムしてない!!」

 

 子は、若い男を指差してそう言った。


 タイムスリップしている者と、そうでない者、何が違うと言うのだ?


 その男の、他の来院者や医者や看護師や事務スタッフらとは異なる点、それは……


 "マスク"だ。


 病院から一歩外に出れば、町行く人々は、大声で語らい、笑いながら、堂々とした面構えで闊歩する。


 「ぼく、もっとちっちゃいころ、みんなマスク! おそと、みんなマスクなし! ここ、みんなマスク! おにいちゃん、マスクなし!」


 子の周りにいる全員が、何かハッとさせられたのか、凍りついてしまった。


 子の時の流れが、特別いわけではない。


 周りが、あの茶番のような日々のまま、時が止まってしまっているのだ。


 


 

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