空中戦の果てには

小野ショウ

ドイツ本土 防空戦

  【Fw190D9】我がドイツ空軍の誇る最新型レシプロエンジン戦闘機だ。


 前身のFw190A戦闘機の空冷エンジンを液冷エンジンに換装、胴体後部を延長して機体バランスを調整そして武装も見直し機首の12.7mm重機関銃2丁、主翼には2cm機関砲が2門と軽量化を計った。


 結果、極めて軽快な飛行性能と最高速度が700km に迫ろうという高性能な機体になった。


 アメリカの【P-51】、イギリスの【スピットファイア】とも互角に渡り合える戦闘機を我がドイツ空軍は開発したのだ!


 エンジン換装による機首の延長に伴うシルエットから付いた呼称は【長っ鼻ドーラ】

 

 エースと呼ばれる俺の誇りをかけるに相応しい戦闘機だ。



 



 1945年4月初旬

 敵の空襲は激しさを増し、飛行場は あらかた 破壊されてしまった。


 やむなく 戦闘機を森の中に隠す。さらに追い打ちをかけるのが燃料と弾薬の不足····かつての大ドイツ空軍も今は見る影もない。


 それでも俺は戦い続ける!祖国を守るためにな。


 薄曇りのある日の朝、味方から 敵爆撃機の接近情報が入った。


 『敵爆撃機を撃墜せよ』任務が下った。


 俺は 代用コーヒーを一気に飲み干し、急いで愛機ドーラのコクピットに乗り込んだ。


 整備兵の誘導で森の掩体壕を出て、開けた野原に作られた仮設飛行場から離陸する。


 高度を6000mまで上げて先に離陸していた僚機と合流。コクピットを見ると、『俺の後についてこい』と手で合図を送っている。


 俺も『了解』と合図を返し僚機と共に報告のあった空域へと向かう。


 敵は【B-17】爆撃機4機と護衛のP-51戦闘機6機。


 B-17はアメリカ軍のヨーロッパ戦線における主力爆撃機で重装甲の機体に多数の対空機銃、さらに最大7800kgの爆弾搭載が可能な爆撃機。


 P-51、こいつは厄介な相手だ!時速700km以上の最高速度、優れた機動性に12.7mm重機関銃6丁を装備している。

 

 しかし、1対1ならば勝つ自信がある!


 だが今回は6機····


 手応えの有る敵数だな、こちらは俺と僚機のドーラ2機のみ。戦力不足は明らかだが、これが現実だ。


 もはやドイツの空は俺達の物ではなく、至る処に敵機が飛んでいる。


 それに対して我が軍はジェット戦闘機を実戦投入したと言う知らせを受けたが、できれば俺達にも回して欲しい。噂では別次元の戦闘機と聞いた····

 一体どれほどの物なのか?パイロットとしては興味は尽きない。


 様々な思いが頭を巡る中、狭いコクピットに収まって指定空域へと向かう。


 少し息苦しいが酸素マスクに異常は無い、少し落ち着け平常心だ、勝てる戦も勝てなくなるぞ!その時遥か前方に光点が見えた。


 僚機に合図を送る。


 速攻と返ってきた!


 敵はレーダーで俺たちの位置を把握しているだろう、ならば迎撃体制に入られる前に突っ込むしかない。


 俺と僚機はフルスロットルで敵へ向かって行く。カウルフラップも全開だ!速度がどんどん増して行き、やがて3機のP-51と接敵した。


 しかし俺の相手はお前達じゃない。


 P-51を突破しB-17へ突撃する。


 無数とも思えるB-17からの対空機銃をかわし、2cm機関砲を撃ち込む。


 一撃離脱を何度も繰り返すがB-17は悠然と飛行を続ける。「このバケモノめ!」見ると僚機も苦戦しているようだ。


 やがて俺と僚機はP-51とB-17に挟まれる格好になった。


 出撃して戦果を上げられなかったのは悔しいが、これ以上は危険だ離脱する!


 俺のドーラは回避行動に入る。だが、敵はこの隙を見逃さなかった。


 P-51の集中射撃を浴び、そのうちの数発が俺の身体を貫く。


 俺の意識が飛ぶ。終わりか····




 


 気が付くと薄暗い空を飛んでいた。


 3時の方角がわずかに明るくなっているが何かは判らない。


 ····!


 すぐに我に返り辺りの様子を伺うが、暗くてよく見えない。少しずつ機体の高度を下げてみる。


 すると。


 どこまでも続く大地には、何機もの戦闘機が残骸となっている。


 「俺の機体はどうなっている?!」

 慌てて計器盤に目をやるとチェックに入る。幸いな事に異常はない


 更にコクピットから見える範囲で機体を調べるが傷は見当たらない。


 そして俺も無傷だ、ひとまず安心か?


 無線通話を試みるが酷いノイズで使い物にならない、俺はともかく僚機は一体どうなった?


 それにここは何処だ?いや、考えている暇は無い。燃料だって無限に有る訳ではないし、何よりも大地に骸をさらしている戦闘機の仲間になるつもりもない。


 「行くしかないか」


 さっきから気になっていた、空が明るくなっている方へ機体を向けた。


 近づくと明るくなっている所から何かが見える····


 さらに近づくと其処では空中戦が行われていた。


 ふと眼前に大きな影が!B-17!


 反射的にエンジンに向かって機関砲を撃つ! よし、火を吹いた「ヤッタか?次だ!」俺はパワーブースターを作動させ、一気に機体を加速させて次の獲物に取り付いた。


 その時、無線が入った


 "ケツに付かれたぞ!回避!"


 「なに?!」


 回避行動を試みるが時すでに遅く、俺のドーラは直上のP-51に捕らえられていた。


 ガガガッ!コクピットに重機関銃弾の雨、その一発が俺の頭を貫く····





 気がつくと再び 薄暗い空を飛んでいた。


 大地には無数の戦闘機の残骸。


 なぜ俺は無事なんだ?そしてここは何処なんだ?しかし迷って居るほど暇では無い!あの明るくなっている空に飛び込めばヤリ直せる!


 計器盤の燃料計をチェックすると燃料はまだ残っている。弾薬も充分だ····そこで俺はある異変に気が付いた。機体武装に3cm機関砲が追加されている「どう言う事だ?」コクピットの中から改めて機体を調べてみると、機首の12.7mm重機関銃が無い。


 そして主翼には2cm機関砲の外側に3cm機関砲らしい砲身が突き出している。試しにトリガーを引くと砲弾が薄闇の中に発射された。こいつは良い、機首の12.7mm重機関銃はあまり役に立たないし射撃時の閃光に悩まされていた。相手が重装甲の爆撃機に戦闘機であるならば3cm機関砲の方が役に立つ。


 「よし!次は何処だ?」


 俺はフルスロットルで明るくなっている空へ向かう。そして、飛び出した先は····


 空襲の被害でアチコチから煙が上がっているが見覚えがある街並みだ。


「プラハ!」


 そして少し先で空中戦が行われている。


 5機いや、6機のP-51と友軍機が4機


「圧されている!」友軍は様々な機種の寄せ集めだ、致し方無しか。


 マトモに戦えるのは俺のドーラだけ、幸いまだ敵に気付かれてない。俺は敵陣の綻びから一気に突っ込む!


 眼前に捉えた1機のP-51へ向かって機関砲を短連射「命中!」機体から煙を吹きながらP-51は戦線を離脱して行く。


 その時友軍機から無線が入った。


 "ケツに付かれたぞ!"またか、その手はもう喰わない!


 高度を一気に下げて旋回、低空性能はドーラの方が優れている。マヌケにも付いて来たP-51の後ろへ回り込む。


 後ろに付いた俺を気にして右へ左へフラフラと飛行するP-51との距離を一気に詰め攻撃!


「命中!素人が!」


 そのまま上昇すると真正面からP-51が突っ込んでくる、相当の手練れと見た。この勝負 先に回避行動に入った方が負ける!


 お互いの距離が徐々に詰まる。俺はスロットルレバーを巧みに操作し勝負の時を待つ。


 相手も俺を捉えて放さない。しかし、先に回避したのは相手の方だった「逃がすものか!」俺はインメルマンターンで相手の直上に付き、そのまま パワーブースター 全開で距離を詰める。


 今度は俺の番だな!


 P-51のコクピットに狙いを定め、機関砲を連射。キャノピーが鮮血に染まりP-51は墜ちていった····


 勝利の余韻に浸る間もなく、俺は仲間の救援に向かう。


 "助かった!"


 "まだ終って無い!気を緩めるな"


 "敵は動揺しているぞ一気にケリをつけよう"


 しかし、P-51は次々と戦闘空域を離脱して行く。


 ····戦争も直に終わる、敵もこんな所で死にたくは無いか。





 全ての敵機が去って行くのを確認すると、友軍からは歓声が挙がる。ドイツ語の他にハンガリー、イタリア語も聞こえた。


 帰る祖国を失った彼らは、これからどうするのか。いや明日は我が身だ、東からはソビエト軍、西からは国際連合軍が首都ベルリンを目指し我がドイツを蹂躙している。早晩ドイツは降伏するだろう。


 その時俺はどうすれば良いんだ?


 武装解除されるまで誇りをかけて戦い続けるか、いっそこのまま国際連合軍の占領地域まで飛んで行って投降するか。


 投降····


 フッそれは無いな、最後の1機になっても俺は戦い続ける。祖国を守るためにな!




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空中戦の果てには 小野ショウ @ono_shiyou

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