第22話 校内選挙の行方

「――と私は思っております。ご投票のほどお願いします!」


 翌週の学校。

 その体育館にて、壇上に上り、マイクを持ち、そこで堂々とした立ち振る舞いで演説していた人がいた。

 その人物とは、副生徒会長の東条二奈とうじょう/になである。


 彼女はしっかりとした内容で演説を行い、体育館に集まっている人らを納得させていたのだ。

 その上、教師らも頷けさせるほどであり、演説前の数日間で明確な目的と行動理念を用意してきたことが伺える。


 副生徒会長曰く、学校生活において思い出に残る行事を打ち出していきたいというモノだった。

 生徒指導の強化とかではなく、意外と生徒に寄り添った考え方である。


 そういった内容であり、今、体育館に集まっている一般生徒らの関心をグッと惹きつけているようだった。


 参加者である他の人らも壇上に立ち、色々な信念を語っていたが、さすがに二奈に勝てる人はいないだろう。

 今週一回目のアンケートでも、二奈がダントツで一位なのだ。

 そこから大きな差が空き、実質二位になっているのが西野麗にしの/うららだった。


 麗も、少しずつアンケート投票で人気を確保しつつあり、状況によっては麗が一位になる可能性もあり得る。


 アンケート投票というのは、学校の生徒のみがログイン出来るサイトにて、選挙期間中だけ掲載されている電子版アンケート用紙の事である。

 スマホからでもPCも可。タブレットからでも、生徒アドレスがあれば閲覧可能なのだ。


 実際の投票の他に、リアルタイムでかつ、匿名的なコメントを残せるシステムであり、生徒らが興味を抱きやすいように臨場感を持たせる一環として以前から取り入れていた。


「参加者全員の演説が終わりましたので、今週の水曜日までの三日間の間、皆様方にはアンケート投票をして貰います。最終日の木曜日に、またこの場にて本格的な選挙を行いますので、のちほどご案内させていただきます」


 選挙結果が分かるまで現在生徒会役員として活動している人が、体育館にいる人らに向かって、文章が記された用紙を片手にしながらマイク越しに説明をしていた。


 それから皆、部活もあり次第に立ち去って行く。


 気が付けば、選挙参加者と、そのサポーターだけが残っていたのだ。




「調子はどうなんだ? 二人は?」


 副生徒会長が、喜多方春季きたかた/しゅんきと麗の近くまでやってくる。

 現状、東条二奈の方が圧倒に有利な状況なのだ。


「私は、頑張ってる方だよ」

「そうか。でも、さっきの演説でもそうだったけど、もう少し具体案を言った方がいいと思うよ」


 二奈は麗に向かって、マウントをとるかのような表情で言っていた。


「あ、ありがと、そのアドバイス」


 麗は特に上を目指しているわけではないのだ。

 二奈からすれば、麗の事を好敵手的なポジションとして考えているのだろう。

 二人の間では大幅に、選挙に対する熱量が違うのである。


「ちなみに、二奈はどうなの? 実力のほどは?」

「私からしたら出来ていると思ってるわ。この一〇人の候補者の中で一番ね!」


 二奈は自信しかないらしい。


「そ、そうなんだ、じゃあ、生徒会長になれる感じ?」

「当たり前でしょ。そういう覚悟で、今まで学校生活を送って来たんだから」


 麗の質問に対しては動揺する事無く、ハキハキとした言葉で宣言していた。

 そもそも、生徒会長になるために、普段から努力を重ねていること自体が珍しい。


 でも、それが副生徒会長にとっての、有意義な学校生活の送り方なのだろう。


「では、私はこれで失礼するよ。あとは結果だけだね。今週中にはわかるだろうけど」


 二奈はチラッと麗の方を見やるなり、体育館の出入り口から立ち去って行く。


 副生徒会長の二奈がいなくなってから、凄く体育館内が静かになった。


 今までその場に止まっていた選挙参加者らも、少しずつ帰り始めていたのだ。


 春季も麗と共に体育館を後にする。


 春季は廊下を歩いている時に、自身のスマホで学校のサイトにログインしてアクセスしてみる事にしたのだ。

 アンケート集計のところには、選挙に参加しているメンバーらの名前が表示されており、その右隣にはパラメーターのような横棒があった。


「どんな感じになってるの?」

「こうなってるみたい」


 春季はスマホ画面を、隣を歩いている麗に見せる。


「私のは?」

「少し下がったみたい」

「じゃあ、良かったってことよね。私、生徒会役員になるつもりもないから」

「まあ、麗さんがそう希望しているなら、上手く事が進んでるんじゃない?」

「うん、でも、二奈には内緒だからね」


 春季は、二人だけの秘密として彼女と約束を交わすのだった。




「では、昨日の投票結果を開示致します!」


 その週の金曜日の午後。

 体育館には、全校生徒が再び集結していたのだ。


 この結果ですべてが決まる。


 体育館の壇上前に設置された巨大スクリーンには、学校の生徒専用のサイトが表示されていた。

 そこにはアンケート集計と、昨日の投票結果を踏まえた横棒のグラフが、各立候補者名の右隣に表示されているのだ。


 一番上に表示されている東条二奈から開票されていく。

 それから次の人の名前と結果が順々と表示されていくのだった。


 二奈がダントツ一位なのは前々から決まっているようなものであり、実質生徒会長候補なのだ。

 二番目に投票率が多い人が副生徒会長として抜擢される。

 スクリーンに映し出された二番目の人は麗ではなく、去年から生徒会役員に所属していた男子生徒だった。


 この調子だと麗は落選かと思ったのだが、巨大スクリーンには五位として名前が表示されるのだ。


「え、私⁉ なんで?」


 麗は今週中、順調に順位を落としていた。

 その理由としては、選挙中、麗の事をサポートしている人に対しての嫉妬心が強く表れていたからだ。

 その人物とは、春季の事である。


 前々から麗と会話しているだけでも、嫉妬染みた視線を感じることが多かったのだ。

 六位に転落かと思いきや、麗の容姿的な理由で、ギリギリ五位にランクインした感じらしい。


 意味不明なところで大逆転しないでほしかったが、こればかりはどうにもならないのだ。

 運命なのだろうと、春季は思う。


 その開示された結果を目撃した麗は驚き、同時にショックを受けていた。


 当選した三位から五位の人らは、今日の放課後に、どのポジションに配置するか。その事について、新生徒会長と新副生徒会長の意見を踏まえながら議論されるらしい。


 結果がわかってからは、体育館内にいる人らが、次第に声を出し始め、騒がしくなっていくのだった。

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