第23話 新しい日々の始まり

 どの学校にも委員会活動は存在する。

 その中でも生徒会役員が、どこの学校においても一番階級が高いのだ。

 生徒会役員を統括するのが、生徒会長。

 その次に、副生徒会長がいる。


 今日――、金曜日を持って、正式に生徒会役員の五人のメンバーが選挙を通じて決まったのだ。


「では、今から他の三人についての役割を考えるとする!」


 放課後の生徒会室には、選挙で当選した人らを含めた関係者数名が集まっている。


 新しく生徒会長になった東条二奈とうじょう/になは、ホワイトボートを背に、テーブル席を囲うように座っている人らを見やっていた。


「副生徒会長になった君も、他の人と同じく席に座ってくれ。今日は私が生徒会長として、今後の事について議論していくから」


 副生徒会長の座を手に入れた男子生徒――真太郎しんたろうは、二奈の発言に従い、他の人らと同様に座っていた。

 真太郎はまだ一年生なのだが、入学してからの数か月ほど頑張って来たのである。

 その姿を、二奈は見ているからこそ、十分に評価しているのだろう。


「選ばれた君らは、ここまで選挙を勝ち抜いてきた優秀な人だ。それにしても、麗も当選するとはね。生徒会長の座は奪えなかったようだけど。選挙初日は、私と張り合う勢いがあったと思うんだけどね。まあ、勝ち上がってきた事に関しては、私も素直に褒めるよ」


 二奈は満足気な顔で、その場に立ったまま西野麗にしの/うららに拍手していた。

 それが彼女なりの評価の仕方なのだろう。


 室内にいる他の皆も、生徒会長の対応を真似するように軽く拍手していたのだ。


「でも……私に務まるかはわからないよ? 二奈、私で大丈夫?」

「んー、どうだろうね。今のところなんとも言えないけど。私と麗は昔からの間柄だし。まあ、ライバルとは言え、ここまで勝ち上がってきた君に負担がかかる業務は与えないようにするよ。でも、それなりには頑張ってもらうから」


 麗の問いに、二奈からは優しい返答が返って来た。


「まずは、後の三人の役割についてだけど……麗、君には庶務をやってもらおうかな」

「私が庶務? 庶務って言ったら、会場のセッティングをメインにやるんでしょ? 私、一人で大丈夫なの?」

「そこに関しては問題ない。だから、選挙期間中に一緒に行動していた君を今日、ここに呼んでいたってわけだ」


 麗の右隣には、皆と同様にパイプ椅子に座っている喜多方春季きたかた/しゅんきがいる。

 春季は選挙には出馬していなかったものの、二奈から個別に指名され、他の生徒会メンバーと共に生徒会室にいるのだ。


 二奈の視線はハッキリと春季へと向けられており、春季は準庶務としての役割を今、与えられた瞬間だった。


「俺も庶務ですか?」

「そうだ、普段から一緒に行動しているのだから連携しやすいだろうし。麗もその方が楽でいいだろ?」

「そうですね、私もそれで構わないです」

「そうか。なら、庶務の担当はこれで決まりだな。残る二人は、書記と会計か。じゃあ、君が書記で、そっちの君が会計でどうだ」

「「はい」」


 男子生徒と女子生徒の返事が聞こえる。

 その男子生徒――悠馬ゆうま。彼は高校二年生で、春季とはクラスは違うが同学年。そんな悠馬には、会計という役割が与えられたのだ。

 彼は二学年の中では成績が優秀な方であり、計算管理が得意だと判断されたからである。


 書記に抜擢された女子生徒の方は高校一年生の千裕ちひろだった。まだ生徒会役員としてのオーラはないが、二奈からは以前から字の上手さを評価されており、その役割を与えられたのだろう。


 二奈からは偉そうな態度が見え隠れしているものの、他人の特徴を把握し、適材適所的に役割を与える事に長けている。

 春季の目線から見ても、リーダーとしての力量も十二分に備えている生徒会長だと思った。


「後は生徒会役員同士の打ち合わせを一時間ほどするから。まだ集中力を途切れさせないようにな」


 二奈は背を向け、ホワイトボードに向かって議題内容を書き出し始めるのだった。




「これで以上かな。後の事は、麗。君と最後に話したい事がある」

「私?」

「そうだ。麗はまだ生徒会役員としての自覚がないからな。そこに関して色々と話したい事があるんだ」


 一時間ほどの打ち合わせが終わった。

 生徒会室に設置された時計の針は、六時過ぎを示している。


「他の人はもう帰ってもいいから」

「では、お先に失礼します」

「私も今日一日ありがとうございました」


 会計の男子と書記の女子は挨拶をして、生徒会室から立ち去って行く。


「生徒会長! これからも、またよろしくお願いしますね! 先輩なら安心できるので。俺も副生徒会長としてやって行けそうです!」


 帰り際。二奈に向け、副生徒会長になった後輩の真太郎が深々とお辞儀をしていた。


「そうか、ありがとな。そういう風に言ってくれて。また次からもよろしくな」


 二奈からもちょっとしたアドバイスを絡めた挨拶をし、肩を軽く叩いて自信をつけさせていたのだ。

 話を終えると副生徒会長は再び、二奈にお辞儀をし、笑顔で立ち去って行く。


「君もお疲れ」

「では、俺も帰りますね。えっと、麗さんの話し合いってすぐに終わりますかね?」


 春季はパイプ椅子から立ち上がった。


「んー、どうだろうね。一時間くらい話したい事があるから、七時半まで残るなら待っていてもいいよ」

「七時半⁉」


 学校の開放時間が最大で八時までなのだ。

 ギリギリまで残ってでも話したい事があるのだろう。


「春季くんは帰ってもいいよ」

「その方がいいよな。俺、一人で帰るから」


 春季は通学用のリュックを背負うなり、校舎三階の生徒会室で、その二人とは別れて暗くなった校舎の廊下を歩き始めるのだった。


 夜六時過ぎの学校にいるのは、この学校に通っていて初めてだと思う。


 十一月も終わりに近づいて来て、夜になるのも早く感じる。


 春季が三階から二階へと向かい、階段を下っている時だった。

 二階の廊下から誰かの足音が聞こえたのだ。


 春季は一階の昇降口に移動する前に、二階廊下に立ち寄る事にした。


 窓の外から見える電灯の明かりで、薄暗く廊下が照らされている今、二階の廊下を歩いている人を見かけたのだ。


 それはショートヘアスタイルが特徴的な幼馴染の神崎阿子かんざき/あこだった。


 薄暗い場所から出現したかのような幼馴染の存在に、春季はドキッとして後ずさる。


 春季はこの頃、幼馴染とは関わっていない。

 阿子の方からも、春季と関わる事に抵抗があるようで、少々俯きがちな顔を浮かべていた。

 がしかし、今のままではよくないと思う。

 これから春季は一応生徒会役員の一員として活動する事になるのだ。

 この瞬間を逃したら、幼馴染と関わる機会が今までよりも減り、もっと会話する事などなくなるだろう。


 春季はこの場から逃げ出したいという思いから、積極的に行動してみようという心意気へと頑張って気分を変え、そこから一歩ずつ踏み出していく。


「阿子! 今日は一緒に帰らない」


 目の前にいる阿子からハッキリとした返答はなかったが、薄っすらと外の明かりで照らされている幼馴染の表情からはホッとした感情が伝わって来たのだ。

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