第21話 彼女と一緒に夜を過ごす事になった

「文章を書くとして、どんな内容がいいのかな?」


 春季と麗は同じ部屋にいる。

 先ほど掃除した成果もあり、床にあったゲームは段ボールの中へと一時的に片づけられてあったのだ。


 空きが出来た彼女の部屋に折り畳みテーブルを広げ、それを囲うように座り、お菓子やジュースをお供に作業を開始していたのである。


「まずは自分を知って貰う事と、生徒会役員選挙に当選した後、何をしたいかとか、そういう内容の方がいいんじゃないかな、多分だけど」


 喜多方春季きたかた/しゅんきは校内の選挙活動について詳しいわけではなく、当たり障りのないアドバイスだけをしておいたのだ。


「そういう内容がいいよね。じゃあ……でも、私、特にこれをやりたいって事が無いんだよね」


 西野麗にしの/うららはシャープペンを右手に持ったまま、首を傾げて悩み込んでいた。


「まあ、成り行きというか、副生徒会長の気分によって強制参加しただけだしね」

「そうなんだよねぇ、でも……生徒会役員になったら、ルールを決められるってことだよね?」


 麗はハッと閃いた感じに呟く。


「多分ね、学校の行事を調整していたのも生徒会役員だったし。できなくもないかも」

「じゃあ、学食のメニューを増やしてもらうとかは?」

「それは学校の行事じゃないから難しいかもね」

「んー、これといってやりたい事もないのよねぇ。しいていうなら、普通に学校生活を送れればいいかなって」


 至って普通な考え方だと思う。

 大きく変化させるよりも現状維持の方が意外と精神的には楽なことが多い。

 だが、新しい道を切り開いていくためには、常に新しい事に挑戦していく必要性があるのだ。


「まあ、それが妥当だよね。でもさ、考えれば考えるほど、あの副生徒会長って、かなり向上心があるよね。学校のために活動したいとかさ。相当な忍耐力ともないと務まらないと思うし」

「そうね。あの子は昔から努力家だったからね」


 やる前からすでに結論が出ているような状況だ。

 特に目的のない人よりも、最初から明確な目標を持ち、日々行動できる人の方が評価された方がいいに決まっている。

 いっその事、副生徒会長の東条二奈とうじょう/になが生徒会長になってもいいのではと思う。


「でもさ、麗さんも選挙に参加する事になったわけだから、ある程度は他人から評価されたってことだと思うんだよね。もしかしたら、いいところまで行くかも?」


 春季は、シャープペンで用紙に箇条書きし始めた彼女の横顔を見ながら言う。


「んー、それもちょっと困るかも。私みたいな人が生徒会役員のメンバーとして当選しても何も出来ないと思うよ」


 一緒のテーブルの上に広げられたA4サイズの用紙を前に、春季と麗は互いに意見を出し合いながらも文章を箇条書きで記していく。


 副生徒会長の目が黒いうちは適当な活動は出来ないと思い、二人は真剣に選挙活動時の文章を考え抜くのだった。




「はあ、終わったぁ、長かったね」

「そうだな。でも、やり切った感はあるね。後は書いた分を読み直して、来週に備えるだけか」


 春季は不覚にも彼女の部屋で疲れ切った顔を見せていた。


「ん? というか、もう夜じゃん!」


 周りを気にせずに取り組んでいた事も相まって、現時刻は夜七時になっており、部屋の窓から見える景色も真っ暗になった。


「これから歩いて帰るのか」

「じゃあ、私の家に泊って行く?」

「え? でも、それだと麗さんに迷惑なんじゃ?」

「私は気にしないよ。むしろ、嬉しいっていうか」

「麗さんがそう言ってくれるのなら、いいんだけど。んー、どうしようかな……じゃあ、泊っていくかな。明日は学校ないし」

「その方がいいよ!」


 麗は嬉しそうに相槌を打っていた。


「じゃあ、今からご飯にする? それとも、お風呂にする?」


 春季が泊ると決まった瞬間から、麗がグイグイと距離を詰めてくる。


「さっき、お菓子は食べたし。今のところは夕ご飯はいらないかな」

「じゃあ、お風呂にする?」


 麗はまじまじと春季の様子を伺っていた。


「お風呂?」

「うん、そうだよ」


 春季は一瞬、麗の入浴シーンを妄想してしまう。


 春季は首を横に動かし、変な妄想を頭から排除しようと必死だった。


「ねえ、一緒に入ってもいいよ」


 麗が、春季の耳元で囁くように言う。

 しかも、彼女曰く、今日は両親が帰って来ないらしい。


 なおさら、如何わしい妄想が脳裏をよぎり、どぎまぎしてくる。


 麗さんと一緒に⁉


 こんなに事が上手く進んでもいいのだろうか。


 夢でも見ているのではと思ってしまうほどだが、春季が自身の頬を引っ張ると、しっかりと痛かった。

 現実らしい。


「で、でも一人で入るよ。入るとしてもね」


 春季は恥ずかしさを誤魔化すために、強気な態度で告げるものの、その声は震えていた。


「じゃあ、背中だけでも洗ってあげるね。それならいい?」

「んー、まあ、それくらいなら、お願いするよ」


 麗と一緒にお風呂場にいる事を考えるだけでも胸元が熱くなってくるが、春季は声を震わせながらも彼女に頼む。


 春季は彼女からバスタオルなどのお風呂道具を渡され、脱衣所まで案内される事となったのだ。




「どこか痒いところはないですか?」

「な、ないよ……」


 本当は痒いところはあるが、麗と二人きりでは、お風呂場にいるだけでも緊張感が増してくる。

 もう少し、この時間を過ごしていたいが、気恥ずかしさも勝り、早くお風呂場から上がりたいという気持ちもあるのだ。


 春季は今まさに、お風呂場のバスチェアに座り、水着姿の麗から背中をタオルで擦って貰っていた。


「春季くんって、結構体つきがいいのね」

「以前も言ったけど、格闘技経験があるから」

「やっぱり、格闘技をやってると、しっかりとしてくるんだね」


 麗は普通に話しているだけだが、その彼女の声が春季の耳元近くで響いている為か、すべてのセリフが嫌らしく聞こえる。


 あまり意識しないようにしても難しい。


 麗がタオルで背中を擦る度に、少しだけ彼女のおっぱいが水着越しに当たる。

 春季のアレも立ってきて、前も後ろもどうする事も出来ない状態へと突入し始めていた。


 さすがに麗と湯船に浸かる事はなかったが、春季は背中を洗ってもらった後は、一人で湯船に浸かり、脱衣所で体を拭いて、麗が用意してくれたパジャマを着る。


 麗曰く、さっきまで身につけていた制服以外の衣類はすでに洗濯しているとのことだ。

 すべてが用意周到すぎると思いながら、下着は、麗の家にあった男性用の下着を身につけるのだった。


 夜遅くまで一緒にゲームをしたり、ゲームやアニメの事について話したりと。楽しい時間を、彼女の部屋で過ごした。


 いざ、就寝する事になったのだが、隣にはお風呂上りでパジャマ姿の麗がいる。

 麗とは同じベッドで就寝する事となり、彼女の存在を隣に感じながらだと全然寝付けない。

 むしろ、お風呂で背中を洗ってもらった事を振り返ってしまい、まったく目を閉じる事が出来なくなっていたのだ。


 しまいには、麗の寝言が聞こえたり、麗が急に抱きついてきて、おっぱいが背中に強引に押し当ったりと、ヒヤヒヤする瞬間を経験してばかり。


 お、俺は寝るんだ!


 春季はギュッと瞼を閉じて、寝る決意を決めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る