第20話 初めての麗の自宅訪問⁉
「春季くん、一緒に帰ろ!」
「うん、そうだね……」
放課後。
そんな時に、肩に通学用のバッグを掛けた麗から話しかけられたのだ。
今日は金曜日である。
明日は普通に休みで気分は楽しいはずなのだが、
学校の廊下で目が合った時も、すぐに視線を逸らされたり、無言で距離を置かれる事もあった。
その事が気になって、気分が少し落ち込んでいたのだ。
阿子を振る事は出来たものの、あれから幼馴染とは希薄な間柄になってしまったのである。
一度失った関係性はそう簡単には戻らない。
それを今、春季は身に持って体感していた。
「春季くん、そんなにため息ばかりでどうしたの?」
「いや、ごめん」
「相談なら、私聞くよ?」
「いいよ。俺の問題だから」
春季の発言に、
「それよりも、今から選挙に向けての文章を書かないといけないし」
「そうだね。春季は無理しないでね」
「あ、ああ……」
「そうだ、春季くんも手伝ってくれるんだよね?」
「そうだよ。逆に、副生徒会長との話で、そういう流れになったし。麗さんのためにも俺が来週までの選挙期間中はサポートするよ」
「でも、私、あまり受かりたくない感じなんだよね」
「え?」
「だって、生徒会役員になったら忙しくもなるし、春季くんとも関わる時間が減っちゃうよ」
「そっか。でも、手加減をしたら、あの人なら絶対に許さないだろうな。一応は、真剣にやろうよ。それでも当選したら、早い段階で断れれば問題ないと思うし」
「んー、そうかもね。真面目に気楽にって感じね」
「そうそう、そんな感じ」
春季は席から立ち上がると、通学用のリュックを背負う。
二人は誰もいなくなった教室の電気を消し、校舎の廊下を歩き始めるのだった。
「もう選挙ポスターが貼ってあるね」
廊下を歩いていると、校舎の一階部分には今回出馬予定のメンバーらの写真がズラッと貼られてあった。
昨日の放課後に写真撮影があり、それらがすでに印刷されてあるのだ。
生徒会役員なだけあって、仕事が早いと思う。
出馬予定の麗の写真もポスターとして作成されており、堂々と貼られてあった。
ポスターには名前やクラス名。その他に、昨日個別で行った一問一答的な回答文も付け加えられていた。出馬予定の人らがどういう人なのか、それをわかりやすく説明されてあるのだ。
内面が分かると、親しみやすかったりするからだと思う。
出馬する政治家をイチオシするためのキャッチコピーというか、紹介文的な感じと似ている。
「ちゃんと、あの副生徒会長の写真もあるね」
二人の視線は副生徒会長の東条二奈へと向けられていた。
「凛々しいというか、あの子は昔から写真写りはいいのよね。だから、今までも生徒会役員に選ばれやすかったのだと思うわ。考え方もしっかりしているしね」
「まあ、確かにな。見た目からしても信念がありそうだものな。ん? そういえば、副生徒会長って、スポーツが好きなのか?」
「そうだよ。昔から色々な部活に呼ばれる事も多くて。身体能力が高いの」
麗は、二奈とは一応友人関係で、ジェスチャーを含めて説明してくれていた。
「へえー、そうなんだ」
「ちなみに、ソフトボールが得意なの」
「そうなんか? 武道が得意そうに見えなくもないけど。ちょっと意外だな」
「そうだよね」
二人で副生徒会長のポスターを見て、楽しく会話していた。
「麗さんの得意分野は、ゲーム?」
「そうだよ。昔からゲームセンターに通ってたからね。家庭用ゲームも得意なんだよ、そんなに自慢するほどじゃないけどね」
麗は恥ずかしそうに頬を指先で触っていた。
「ゲームか。ゲーセンだけじゃないのか」
「そうね。オタクみたいなところもあって。でもね、漫画とかアニメを見るようなオタクっていうよりも、ただのゲーム好きって感じ。ゲームをやっていれば、色々な人とコミュニケーションが取れるし、なんていっても楽しいからね」
麗がずっと会話していても疲れづらいのは、昔からの習慣が影響しているからなのだろう。
普段から夜中まで通話していても、まったく眠そうに見えないのは、そういう理由なのだと、春季は自分なりに解釈するのだった。
一通り校舎の壁に貼られたポスターを見終わった二人は、学校を後に通学路を歩く。
今から向かうのは、コンビニである。
選挙活動する時に使う文章を書くためには、かなり頭を使う事になるのだ。
ずっと頭を稼働させていたら疲労感に襲われるのは目に見えている。
一呼吸付くためにも、コンビニのお菓子やジュースは必要不可欠なのだ。
コンビニは、麗の家近くにあるお店を利用する事にした。
入店すると、いらっしゃいませといった店員の声が聞こえてくる。
店内でかかっている今流行りの曲を耳に、商品が置かれている棚周辺を回って歩く。
お菓子コーナーと、ジュース売り場を中心に行動し、ポテチやチョコ。飲み物に関しては、一ℓ入りのミルクティーを一本分選ぶ。
疲れた時に食べるチョコほど、幸せな瞬間はないだろう。
ポテチやチョコ、ミルクティーは休憩するには打ってつけの組み合わせだと、春季は思っている。
レジで会計を済ませると、麗の家へと向かう。
彼女の家に行くのは今日が初めてで、ドキドキしてくる。
ど、どんな家なんだろ。
実際に麗の家に到着すると玄関のところから綺麗に整っており、家自体は普通だが、お洒落な雰囲気が漂っているのだ。
「私の家は二階なの。案内するね」
玄関先で靴を脱いだ二人。
春季は麗から導かれるように、玄関近くの階段を上って行く。
階段のすぐ近くに麗の部屋があった。
扉には麗とローマ字で書かれたプレートがつけられており、麗はその扉を開けてくれたのだ。
「ここが……麗さんの」
「そうよ。どうぞ、好きな場所に座って」
「あ、ああ……うん……」
女の子の部屋だから綺麗で愛らしいぬいぐるみや、ピンク色のカーテンやベッドなどがあると思っていた。
が、現実は大きく異なる。
麗はゲーム好きだと言っていた事もあり、部屋の床には大量のゲーム機や、ゲームソフトが散乱していたのだ。
ある程度は綺麗に片づけられているものの、それでも尋常じゃないくらいのゲームの数である。麗の部屋は八畳だと思われるが、かなり狭く感じた。
「どれくらいのゲームがあるの?」
「んー、今まで発売されたゲーム機の殆どはあるわ。でも、あまりにも昔のゲーム機はないよ。ファミコンとかね」
「す、凄いな。殆どか……」
何とかSPや、何とかBOX。テレビのリモコンで操作するゲーム機など、多岐に渡るのだ。
最新のリモコン取り付け型のゲーム機もあった。
「私、中学の時代はゲームばかりやってて、それで昔は眼鏡をかけてたの。私、意外と視力低いんだよね。今はコンタクトをつけてる感じなんだよね」
「コンタクトレンズか。こんだけゲームをしていたら目も悪くなるよね」
春季は今まで、麗のことを陽キャ寄りで親しみやすい女の子だと思っていたが、この現状を見る限り、印象が変わる。
でも、似た部分があり、共感は出来るのだ。
春季も中学の頃はラノベやアニメを夜中まで見ていたからである。
「でも、作業するなら片付けないとね。春季くんお願い。ちょっと掃除するの手伝って」
「ああ、わかったよ」
春季は麗の部屋の現状を見て驚きの方が勝っていたが、目の色を変え、麗と一緒に片付け作業を始めるのだった。
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