第6話 俺は今、双方の胸に囲まれている⁉
まあ、問題なければいいんだけど……。
放課後。
「春季くん、そろそろ帰ろ」
クラスメイト――
教室内にいる他の人から嫉妬染みた視線を向けられるが、あまり気にしないようにした。
視線を合わせないようにして、麗だけを見ていたのだ。
「ちょっと待って。あともう少しで終わるから……これで」
春季は今日の課題も全部。通学用のリュックに引き詰めて、チャックをしまうとすぐに背負う。
「行こ」
麗から笑顔で手を差し伸べられる。
しかし、周りからの視線が気になり、自ら断った。
「それより、ちょっと話したいことがあるんだけど」
春季は彼女の耳元に近づき、小声で話す。
「どんなこと?」
「それはここでは言えないんだけど。別のところで」
「んー、分かったわ」
麗は何となく察してくれたらしい。
二人で教室を後に人通りの少ない場所へ向かう事にした。
「それで、お話ってどんなこと?」
二人は誰もいない廊下近くの空き教室に入り、そこで話す事にしたのだ。
「それなんだけど、今日、幼馴染っていうか。俺には昔からの幼馴染がいて。その子も今日一緒に帰りたいって言うんだ。今日だけならいいかな?」
「んー、幼馴染ねえ」
やはり、麗にしても少々悩ましい問題だったらしく、数秒ほど難しい顔を浮かべていた。
「まあ、いいけど……その子、幼馴染なんだよね?」
「そうだね。幼馴染だね」
「だったらいいけど……でも、私との約束は忘れてないよね?」
「え、うん。ずっと付き合うってこと?」
「そうそう。守れそう?」
「あー、それに関しては大丈夫だと思う」
「それならいいよ。それで、その幼馴染の子は?」
「別のところで待ってると思うけど」
春季はスマホを手に取り、幼馴染と連絡を取り合っているフォルダを開いて画面を見やる。
フォルダには幼馴染である阿子からのメッセージが届いていたのだ。
内容によると、阿子は校舎の昇降口周辺にいるらしい。
「阿子っていうのね、その子って」
「え⁉」
春季がじっくりとスマホ画面を見ていると、麗がスマホを覗き込んでいたのだ。
「阿子って子、幼馴染なんだよね。でも、文章的に幼馴染らしくないような」
「そ、そんな事はないから。本当に幼馴染だよ。今までだって恋愛的な関係に発展した事もないし。昔から一緒だったけど、この頃はクラスも違ってあまり話していないし」
「ふーん、そうなんだ。なら、いいんだけど。ちょっと不安かも」
「え……俺、麗さんとの約束は守るよ」
「ごめん、ちょっとからかっただけ。別にそこまで疑ってはいないけどね」
麗はスマホ画面から視線を離し、春季の方を見ると笑みを浮かべていた。
「それで、どこに行くのかしらね? 春季」
「それはまだ俺もわからないけど」
春季は左側にいる幼馴染――
「麗さん、どこに行く予定だったの?」
「私は街中に新しく出来たドーナッツ専門店に行く予定だったけど」
春季の右隣を歩いている麗は言う。
今、春季は学校を後に通学路を歩いている。
しかも、二人の女の子からの板挟み状態で街中へと向かって移動しているのだ。
一応、通学路には同じ学校の制服を着た人らもいて、その人らの視線もある事から、春季の不安は収まる事はなかった。
付き合っている子と一緒に放課後を過ごせることに嬉しさはあるが、板挟み状態で人通りの多い場所を歩くとなると気恥ずかしい一面もある。
「へえ、ドーナツ専門店に行くんだね。そういえば確かに、街中に新しく出来たよね!」
阿子は考え込むような顔をして、独り言を呟いていた。
「そうなの。あなたも知ってる感じ?」
「そうね。私も休日には街中に行くしね。この前、街中を歩いている時にチラッと見かけたの」
「そうなんですね。私たち、ちょっと気が合うかもですね」
意外にも、麗と阿子は初対面にも関わらず、普通に話し始めていたのだ。
もう少しぎこちない感じになると思っていたのだが、彼女らの板挟みになっている春季は驚いていた。
春季は二人に挟まれたまま道を歩き、そこから街中近くの信号機を渡って移動する。
街中に近づく度に、人通りがさらに多くなるのだ。
春季は周りからの視線を感じる。
二人の女の子を連れて歩いていることから、珍しく思われているのかもしれない。
色々と当たってるんだよな……。
春季の両腕には、それぞれの胸が当たっていた。
右からは豊満な胸を持つ麗のおっぱい。
左には阿子がおり、幼馴染である彼女もそれなりに大きい方である。
昔は幼馴染の胸については全然気にした事はなかったのだが、麗と比較できる状況だからこそ、なおさら阿子のおっぱいについて妄想してしまう。
デカいのはいい事だが、唯一の悩みとしては、周りの人からおっぱい目的で付き合っているのではと思われないか、それが不安であった。
んー……麗さんと比較すると、阿子のおっぱいって意外と小さいのか?
いや、逆に麗さんのがデカすぎて小さく感じるだけ?
んー……。
春季が悩みながら首を傾げていると、何かを察したのか左隣にいる阿子がジーッと見つめてきていたのだ。
「な、なんでもないよ。なんでもないから、本当に」
「え? なに? 私、何も言ってないけど?」
「え? あ、そうか」
まさか、墓穴を掘ってしまった感じか?
「もしかして、変な事を考えてなかった? 鼻の下を伸ばしてたし」
「いや、いや、全然。俺は普通だよ。何かの見間違いじゃないのか?」
「へえー、そうなのかなぁ?」
左側にいる阿子からジト目で見られているが、春季は全力で違うと誤解を解こうとする。
そんな中、右側にいる麗の動きが止まるのだ。
「二人とも、ここよ。ここが、私が来たかったドーナッツ専門店なの」
新しめな外観。
今風のデザインをしており、店内に入って行く人らは大体が若い人。新店舗ゆえに繁盛している感じがする。
実際に入店してわかった事だが、普通に賑わっていて楽し気な会話が聞こえてきていたのだ。
店内のルールとして、お客様自身がドーナッツを取るためのトングと専用のトレーを持ち、他のお客の後ろに列として並び、欲しい商品を選んでいくといった流れらしい。
三人は店内のルールに従い、列に並んでドーナッツを選ぶ。その後で会計を済ませると、三人は席まで移動し、店内で飲食したり、会話をしたりして過ごすのだった。
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