第六話 ミミック

 29階層へと上がり大きめな広場へと出たので気晴らしに野球をすることになった。野球はソラの趣味で共同生活時にアルに教えたスポーツである。と言っても二人しかいないわけでペッパーしかできない。

 醜悪闘鬼からドロップした伝説級の金棒血桜をバットがわりにアル君がバッターボックスに立ちメタルスライムからドロップした粘金で作ったボールをソラが投球。

 球種はカーブ、魔力でボールを操作できるがそんな無粋な真似はしない。

 アルはギリギリまでボールを引きつけライト方面へ打ち返す。ステータス差はあれど、もはやプロ並みのバッティングセンスだ。

「打たれましたか。さすがですね」

 アルの打球は伸び続け広場の端に激突する。すると壁にめり込んだ粘金玉の周囲に亀裂が入りボロボロと崩れそこから隠し部屋が現れた。

「隠し部屋やな」

 ペッパーを中断し、ソラとアルは好奇心の赴くままに隠し部屋へと探索に出る。隠し部屋には宝箱が一つありその他は何もないただの空間。

 アルは宝箱に近づこうとするがソラが制止させる。

「アル君、不用意に近づかない方が良いですよ。このパターンはアレです。宝箱に擬態したミミックの可能性があります」

ソラは教師時代、生徒の間で流行しているゲームをしていた時期がある。故にゲーム的知識はある程度持ち合わせているのだ。

「せやな。でもミミックは無害な魔物やで。いわゆる付喪神的なやつで人を襲う様な凶暴性は皆無や。開けてみたらええんちゃう?」

ミミックは長期間濃度の高い魔素に触れ続け魔物へと変異した意思あるモノだ。この世界ではびっくり箱的扱いでサプライズ用に捕獲されることがある。

 しかし、ソラはもしもの事があったらいけないとケンさんにアレがミミックかどうかを聞くが......。

「主人殿はロマンがないねんロマンが!最初から当たり外れがわかったらおもろく無いやろ?人生何があるか分からないからおもろいねん。アル君にはロマンのある男に育って欲しい」

 なんだか胡散臭い言い回しだがまぁ、一理あるとソラは納得しアルの高ステータス状何があってもなんとかなるだろうと今回は目を瞑ることにした。

「僕......ロマンのある男になる」

 アルは宝箱へと近づき中身を開けようとするが...。

パクリ!と宝箱が口を開けアルの上半身をはみはみする。

「びゃっ!」と変な声を漏らすアルにケンさんは爆笑していた。やはり偽物だと知っていたらしい。

 その後、ソラはアルを回収しペッパーの続きを始めた。今度はケンさんをボール代わりとして。

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