第2話
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「───んで、そのまま気を失ったとww」
隣でお菓子を食べながら『なんでそんな愛のないプロポーズにキュンキュンできるかねぇ』と大爆笑しているのは、私の相棒であり唯一の友達、上位精霊のレイだ。
そしてその隣で、恥ずかしさに死にそうになっているのが私、ルーナ・シャーロット・グラウプナー。
昨日の王太子様の華麗なる婚約破棄には、レイは別件で用事があったので行かなかった。精霊の力はあくまで補助的なもので、基本は私の力だけで難なく聖女の仕事ができる。
(特に私は、今までの努力の賜物でちょっと魔力の容量が多くなってるしね)
あの後、私に求婚してきた王太子ノア様は、案の定大慌てで私の家に連絡し、気絶している私を送ってくれたらしい。
先に屋敷に帰ってきていたレイがそれを見つけ大爆笑。
さらに知らない間に持たされていたノア様からの手紙をレイに先に見つけられて大爆笑。
それを取り返せずに読んだレイは、「マジィ!?」と大爆笑。
三段階で大爆笑されたのち、今に至る。
ついでに言うと、聖女でもなくなり妹を虐げていたと言う評判(嘘)が広まった私を、両親は追放しようとしていたらしい。聞き耳を立てていたレイが教えてくれた。
しかし運のいいことにノア様が
『よろしくお願いします。』
と言って引き渡してくれたおかげで、かろうじて家に残ることができているみたい。
流石に隣国の王太子直々に任されてしまっては断れないのかな?
(実際のところ私は家族に愛されていないのはわかってる… だから早く家を出たほうがいいことも…)
ただ、ここまで理解していても出て行きたくないのが、この私ルーナなのである!
だって、今住むところを追われたら生きていけないし、最善の方法が「ノア様に嫁ぐこと」と言うのも、私的には納得できないんだもの!
「変な見え張ってないで、さっさと結婚しちゃえばいいじゃないっすかぁ〜 ここと違ってエユリールは大国だし、絶対美味しいものいっぱい食べられますよ〜」
レイが笑いを堪えられていない声で言ってくる。
(確かに美味しいものは食べたい…)
でも食べ物に釣られてきたって思われるのもっ!
長年の修行の末、なんでも「生存のため」を一番に考えるようになってしまった私の脳みそは、『結婚しちゃえっ』と言ってくるのも悔しい…
でも私の、『自分のことは自分で』の信念が邪魔をしてくる…
私は一体…どうすればいいんですか───────。
◆ ◆ ◆
「ルーナ、入るぞ」
お昼時、ちょうどお腹が空いてきた私にお父様が訪問してきた。
「実はな、先ほど隣国の王太子様から直々に申し出があってな。お前は隣国に嫁ぐことになる。本当はリーファに回してやりたい縁談だし、リーファも乗り気だったんだが、何故かお前を指名だ。」
それだけを手早く言うと、お父様は帰ってしまった。
あまりの話に頭を抱えたくなる。しかも何点か…
一つ、何故勝手に了承しているんですか! 貴族なのだから仕方ないのはわかっていても、言っておいて欲しいですね…
二つ、リーファはこの国の王太子と結婚するんですよね! 私からわざわざ濡れ衣を着せてまで婚約者を奪ったのに、こんな小国の妃ではいやだと言うのですか…?
三つ、そしてそれをあちらに話したんですか!? 公爵家とは思えぬ常識のなさ… そもそも私は長女なので、一般的に見ても私が優先ですし、すでにルーカス殿下との婚約が進んでいるのに何故申し出たんですか? 受けられてしまった時のことを考えなかったんですか…?
自分の両親ながら恥ずかしくなってくる。
私の家庭はかなり複雑だ。まず、グラウプナー公爵家は私の母が持っていた爵位で、父は婿入りの形になる。
しかし、私が2歳の時に母は病に倒れてしまった。だから公爵家の主人は一応は私になるのです。
ところが母が亡くなるとすぐに、新しいお母さんが来て、しかもお腹に赤ちゃんがいた。
その後、いつのまにか義妹のリーファが生まれ、私の部屋は屋根裏部屋に移されてしまった。
結構ひどい話だと思うのよね…
リーファが生まれた頃から、私の聖女修行の厳しさがヒートアップしていたおかげで、屋根裏部屋ですら快適に感じていたけれど…
それに、父はオブラートに包んでも考えなしで、数々の事業を失敗している。
グラウプナー家が公爵家だったおかげで、生活や領地に影響は出ていないけれど、他の家が同じことをしたら、伯爵家が二つくらいは消える気がするわ…
ちなみに、国政への参加は修行中だったこともありお父様に任せていたけれど、領地経営の方は、全て私が担当していた。
と言うよりも、私が手を出さなければ領地は今頃廃村になりそうなくらい、お父様はほったらかしにしていたことがわかったからだ。
私がやっと領地経営に関われるようになった時、お母様が当主だった間は自然に囲まれ美しかったグラウプナー公爵家の領地「シュトレンティア」はすでに荒れ放題になってしまっていた。
私は厳しい修行の合間を縫って、シュトレンティアの領主代理の方に手紙を送り、遠くから領地経営をしていた。
ちなみに手紙をいち早く送るためだけに、高度な転送魔法を連発していたおかげで、転送魔法はプロになりました!
(私がこの家から離れれば、やっと美しい自然が戻ってきた場所も、また荒れ果ててしまう気がする…)
「こんな家を離れたいのはもちろんだけど、私にも守りたいものがあるのよ…」
私は小さく呟いた。それが聞こえたレイは、少し悩むと、
「じゃあ隣国に嫁ぐのが一番いいんじゃないっすか? ルーナはどうせシュトレンティアのこと考えてるんだろ? 隣国は大国だから、この小国パッティアなんかよりもずっと権力がある。直接的には干渉できなくても、何かしらでシュトレンティアに触れる機会は作れるはずだし… 何より、俺はルーナにもっと体を大切にしてほしいから。」
「レイ… 珍しいね! いっつも何かしらで突っかかってくるのに… ありがと!」
私は嬉しくなってレイに微笑みかける。
信頼関係があるこそだけど、私たちは基本的にお互いを笑うことしかしないから…
(レイが心配してくれるなんて…嬉しいな。)
「っち! 違うからね! 心配したとかじゃなく、俺はルーナが死んじゃったら精霊界に帰らなきゃいけなくなっちゃうから、それが嫌ってだけでっ!」
慌てて取り繕っているけど、そんなレイに私は今まで救われてきた。
私に仕えている精霊のはずなのに、生意気に話しかけてくるから、私は人の温度を忘れないでいられたんだ。
(まぁ、レイは人じゃないんだけど…)
心配だけど、お互いに利益しか生まないのよね… この婚約は、
(なら…)
行ってみようかな。
エユリール王国───────。
私は心の中でそっと決意した。
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〈本編には関係ないです〉
主人公→ルーナ・シャーロット・グラウプナー(上位精霊レイの主人)
義妹→リーファ・シェラザール・グラウプナー
出身の小国→パッティア王国(王太子ルーカス)
隣国→エユリール王国(王太子ノア)
なんか情報量が増えた回でしたが、これだけ覚えておいていただければとりあえず大丈夫かと!
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