義妹に聖女の称号を奪われた悪役令嬢は、隣国の王太子に拾われました。〜愛を知らない天才聖女、どうやら溺愛されているらしいです〜

世々原よよ

第1話

シルクのように滑らかな金色の髪、アメジストを埋め込んだかのような、紫色の煌めく瞳。ドレスから除く腕と首は華奢で、簡単に折れてしまいそう────。


私の義理の妹、リーファはとっても可愛くて妖精さんみたいです!

いつもは…


今のリーファは、同じく金色に髪に緑色の目を持った美しい王太子に抱き寄せられ、私に蔑んだような目を向けています。

醜く歪んだ表情は、リーファを後ろから抱き寄せている王太子様には見えません。おまけに、今は人払いがされています。つまり、彼女の表情を見るのは私だけなのです!


ところでリーファは、として広まっていた気がするんだけど…

あの表情ではとてもそうには見えないわね…

(せっかくの美人が台無しだわ!)


私はリーファについてほとんど知りません。

小さい頃から聖女修行を積んでいた私は、リーファに関わる機会がほとんどなかったから…

家を離れていることも、国外にいることもありました。思えば、聖女修行を積んで国外にいるとはいえ、珍しい聖女を産んだとなれば、私の家「グラウプナー公爵家」と王家のつながりはさらに強固なものとなっていたのでは…?

それなら、リーファを溺愛している両親が王太子様に合わせることも当たり前です。


でも、納得できないことがあります!


王太子ルーカス様は、私の婚約者でした。

なのにどうしてリーファは、王家以外が身につけることの禁止になっている、トパーズイエローのドレスを身に纏っているのですか?

ルーカス様はなぜ、私を蔑んだような目で見るのですか?


正直、小さい頃から修行漬けでルーカス様とはほとんど話したことがないので、なんの未練もないのですが、これはアレですよね…?


婚約破棄…されちゃいますよね…?


いやいや、確かに深い水色の髪の毛は珍しいし、目は黄色いし若干吊り目気味だから、可愛さで言ったら圧倒的にリーファの方が上ですよ…?

でもそんなに冷たい目で見ることないじゃないですか!婚約者だったんですよ!(一応…)


「ルーナ・シャーロット・グラウプナー侯爵令嬢!」

ほら始まりました!ルーカス様が高らかに私の名前を呼び始めました!

「貴様との婚約を破棄する!か弱いリーファを虐げ、心に傷をつけたこと、私は時期国王として、見逃すことはできん!そのような醜い心を持った女性は、私の婚約者、そして国の聖女にはふさわしくない!」


ちょっと待ってください!

婚約破棄はゼンッゼン未練ないので受け入れます!

でも、リーファをいじめた記憶なんてこれっぽっちもないんですけど!?

とりあえず、私の生まれて18年間の修行の賜物、全く動揺を表情に出さずに会話のできる能力を使いまして…


「わかりました。婚約破棄、謹んでお受け致しましょう。ただし、一つ気になることがございます。私には、私の妹リーファをいじめた記憶などありません。ですから、聖女の職を追われるのは納得できませんわ。」


わぁ、私ってこんなにまともな会話ができたんだ…と自分で驚く。

そして殿下は私を鼻で笑った。


「何が『記憶にない』だ。自分では罪を認めないに決まっているであろう。貴様のこれまでの悪行は、全てリーファから伝えられている。『バレたらお姉さまにムチで打たれるかもしれないっ』と涙を浮かべながらも、私に助けを求めてきたのだ。その健気な勇気を守らずして、何が王太子か!見ての通り、私が愛し守るのはリーファだ。それに、リーファは強い癒しの力を持っている。年中国外でバカンスを楽しんでいるお飾りの聖女などいなくても、リーファが聖女として十分に働いてくれるだろう。」


私は呆れてものも言えなかった…

何がバカンスよ!

私はあなたのいうその中に、雪山の中で1ヶ月間サバイバル生活したり、針の上を歩いたり、クマに追いかけられたり、水でいっぱいの箱に閉じ込められたりしていたのよ!

とりあえず、殿下がリーファに夢中なのはわかった…


でもこれまでの努力が報われないのは納得できないじゃない!


「殿下、そうは言われましても、本当に身に覚えがないのです。どうか、聖女の件だけでも考え直してもらうことは叶いませんか?それに、『聖女』と言うのは、癒しの力が使えればいいと言うものでもありません。精霊と強く心を通わせる必要があるのです。精霊の力をお借りして、癒しの力を使い、結界を張り、農作物の成長を促進したり、天候を操作したりするのです。ですから、どうか…」


今度は下手にでてみる。

すると殿下は一瞬満足そうな顔をしてから口を開いた。


「無理な話だな。これ以上言うのなら投獄するぞ。それに、リーファの力に嫉妬するとは…女の嫉妬は見苦しいな。私たちは忙しい。それではこれで失礼する。早く新しい職を探すんだな。」


あぁ…終わった─────。

私の今までの努力が… 身に覚えのない罪によって消えてしまった…

彼らにとって、私は妹を虐げ婚約の邪魔をするでしかない。

遠くから聞こえてくる、「リーファ、結婚式のドレスはどんなものがいいかな?」という殿下の声が地味にイラッとくる。

私は今日約半年ぶりにこの国に帰ってきた。そしたら急に殿下に呼ばれて、そのまま「聖女失格!」なんてありえない──────。



私は絶望を抱えたまま歩く。どこに向かっているのかも、ここがどこなのかもわからない。

(いっそのこと悪役らしく、このまま王宮爆破させちゃおうかしら?)


心に浮かんだ悪い考えを頭を振って忘れる。

そんなことしたら、投獄どころか死刑になってしまう…!

心を切り替えよう!

私は聖女の称号にこだわっているわけではない。小さい頃からずっと、この精霊と心を通わせることのできる能力を使って人々を助けることが目標だったんだ。それは聖女の称号がなくてもできる!

そうして私は小さくガッツポーズをする。


「どうかされましたか?」

急に後ろから声がかかる。

「ひゃぇ!」


変な声が出た。だってびっくりしたんだもん!仕方ないじゃない!

そして私はお得意ので返事をする。


「先ほどは失礼いたしました。あまりに驚いたもので。特に何かあったわけではないので、ご安心ください。これは私の問題です。」

やっぱり私、心の中と口が別の人なんじゃないかしら…


「そうですか…何か悩みがあるのなら、私でよければ聞きますよ?」

あぁ、イケメンは言葉までイケメンなのか…

私に声をかけてくれた男性は、国の重鎮たちが満場一致で「イケメン⭐︎」と答えを出すような、えっぐいイケメンだったのである。

サラサラとした長めの銀髪に、切れ長の青い瞳。何の変哲もない彼のかけているメガネが、ものすごい高級品に見える。


「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。ところで、目が悪いのですか?私は先ほどまで聖女として仕事をしていましたので、直すことができますよ。」

体の不調を確認すると治そうとしてしまうのは、私の癖だ。

(ただ彼に関しては、メガネをかけていた方が知的な見た目がさらに際立つ気がする…)


「このメガネは魔力を感知し、カットできるものになります。洗脳などの精神に干渉する魔法を防ぐためなので、大丈夫ですよ。こう見えても一国の王太子ですからね。念のためですよ。」


えっ──────。

オウタイシ…?オウタイシってあの王太子!?

そういえば肩に隣国の王家の紋章が……!


「申し訳ありませんでした!王太子様だと気づかず、身の丈に合わない申し出をしてしまいました。」


私は全力で頭を下げる。

これは…マズイ…

今度こそ本当に投獄されてしまうのでは…?


「お気になさらないでください。私はあくまで隣国の王太子ですので。ここはあなたの国なのですから、堂々としていてください!」

隣国の王太子様は言った。

「そんなことより、聖女様ですか!すごいですね〜きっと今までにもたくさん努力をしてきたのでしょう。尊敬します。」


「えっ…!」

まさかこの流れで褒められるとは思っていなかった。それも私が今一番傷を負っている「聖女」についての部分だ。

初対面で私のことなんて知らないはずなのに、どうしてそんな優しい言葉をかけてくれるの…?

王太子様の前だと言うのに、目尻が熱くなってくる。

最初の一雫が、頬に流れるのを感じた。


「えっ!そんな!泣かせるつもりはなかったんです!何か気に触ることを言ってしまったのなら謝罪します!」

王太子様がオロオロとあわてている。


「いいえ、大丈夫です。実は先ほど、この国の王太子殿下に記憶にない罪を着せられて聖女の職を追われました。今までの18年間の努力が消えたところにそう言っていただいて、とても嬉しくて… 王太子様からいただいた言葉だけで、これまでの努力が少し報われたように感じます。ありがとうございます…!」


私は深く頭を下げる。一応は王太子様の婚約者だったので、小さい頃から聖女修行の合間を縫って叩き込まれた美しい所作は、私の自慢だ。涙を浮かべながらも、堂々とカーテシーを披露する。

「それでは、私はこれで失礼します。これからの人生のためにやることがたくさんありますから!」

そう言って私は王太子様に背を向けた。


「あの… 私の国に来ませんか?

王太子様から声がかけられる。振り向くと、王太子様は何か悩みながら私の目を見つめる。


「実は、今私は『早く婚約者を決めろ』と催促されている身でして… もちろん、この国に思い出もあるでしょうから、いつになっても構いません。ただ、私の国には聖女様はいません。」


私は驚いて彼の瞳を見つめ返す。


「私の国ならば、聖女の仕事も続けられます。だから、私の婚約者として、エユリール王国に来ませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る