第3話

「へぇー!ここがエユリールか!」

私の隣でふわふわと浮かびながら、周りをキョロキョロと見回しているのは、私に使える上位精霊「レイ」。

(普段の生意気な言葉さえなければ、全力で可愛がるのに…)

精霊というものは全員が見目麗しいことが特徴だが、レイはその中でも特に美しい。というか可愛い!

若草色の髪の毛はふわふわとした癖っ毛で、血の雫のような瞳はクリクリとして可愛らしい。


「ルーナ、なんでそんなに俺の顔見るの…? 怖いんだけど…」


この「私が一応主人なんだよ!?」と思ってしまう発言さえなければ…


「いやぁ、改めてレイは可愛いなぁって… 景色が映えるなぁって…」

「いや、急になんだよ。」


レイが珍しく照れている。かわいい♡


「ルーナ、エユリールの馬車はどこに迎えに来てくれるんだ?」

「えっとぉ、確か王都の入り口の近くに騎士様が来てくれているはずだから探してみましょうか!」

「おっけ まかせろ!」


そう言ってレイはパッティア王国の馬車の窓から飛び出し、空高く飛び上がる。確かに人探しは高いところからの方が簡単だし、素直に感謝…!

(周囲の人がザワザワしていないのを見ると、今は姿を消しているのね…)

レイは上位精霊で魔力が強いため、魔力を持たない人にも見える姿と見えない姿を、自由自在にON/OFFできる。

なんて便利なんでしょう!


「ルーナ! あっちの噴水のとこ!」

「りょうかいでーす! ありがと!」

レイが上から降りてくるのを待ち、レイが指をさした方向に移動してもらう。

他国に嫁ぐということで、一応護衛の方はついて来てくれているのだけれど、みんな「リーファをいじめている悪・虐・令・嬢・」だと思っているっぽくて、全く関わろうとしてくれない…


(もうパッティア王国のものではなくなるから、関わることはないのだけれど… 少し悲しいわね…)



「エユリールはすごいなー! 遥か彼方まで王都が広がっているし、めっちゃきれい!」

上機嫌のレイを横目で見ながら、私も馬車の窓から街並みを見てみる。

パッティア王国は基本的に建物が木造で、統一感を重視しているのに対し、エユリール王国は様々な建物が立っている。それでも見てて心地良いのだから、とても興味深いわ!

(レンガに、木造に、石でできている建物もあるわ! あれは…テラコッタかしら?)

カラフルな壁や屋根に、旗や幕がかかっていて、とても綺麗ね───。


◆ ◆ ◆


「おお! 噴水おっしゃれぇー! ルーナ、あの馬車だよね!」

「えぇ。エユリール王国の紋章が入っているから。」


噴水の近くには、少し小さめで、繊細な彫刻のついた白い馬車が止まっていた。

エユリール王国の王族の紋章が描かれた鮮やかな旗が風にはためいていて、とても美しい───。


私は護衛の方にエスコートをしてもらい馬車から降りると、エユリール王国の馬車に近づき、馬車の近くに立っている騎士様に近づいた。


「こんにちは。パッティア王国から参りました。ルーナ・シャーロット・グラウプナーと申します。噴水で待ち合わせをしているのですが、こちらの馬車で間違いありませんか?」


ちょっと暖かめのつくり笑顔で、騎士様に対して軽くお辞儀をする。


「ルーナ、ようこそエユリールへ!」


───────!


聞き覚えのある声が横から飛んできました…!


「えっノア殿下!? なぜこちらに!?」


私が王宮に向かうために乗るはずだった馬車に、なぜかノア殿下が座っています!

(今さらっと『ルーナ』って呼び捨てにされなかったかしら?)

顔を真っ赤になっているのを感じながらみると、その美しい容姿が見えた。

馬車のドアを少し開けて、こちらに微笑み、指を口に当てている姿は、とてもかっこいい…


「あんまりここで『殿下』って呼ばないでくださいね。街の人々に囲まれてしまうと、城に戻るのが夕方になってしまいます。」

「はっ… はいっ!」


私はノア殿下が漂わせる色気にカチカチになりながら、頭をぶんぶんと振った。


「そちらはルーナの侍女の方ですか?」


えっじじょ…? 私にそんなたいそうなものはついていないけど…?

不思議に思いながら振り返ると、


「えっ! 俺男っす!」


せっかくの可愛い顔を引き攣らせて、手をぶんぶんと振って否定しているレイがいた。

(後でいじり倒そう)


確かにレイは可愛い顔をしているけど、服装は長袖シャツにミルクティー色の長ズボン。

剣や鎧は身につけていないとはいえ、女性には見えない気がする。


「ノア殿下、彼は私の使役精霊でレイといいます。確かに背も小さいし可愛い顔をしていますが、ちゃんと男の子です!」


私はさらっと背・が・小・さ・い・ことにも触れながらノア殿下に説明する。

レイが顔を真っ赤にしながら、何か言っているけれど、聞こえないことにしましょう!


(身長はレイの気にしているところであり、私がいじってもいい場所と判断している場所! この前散々大爆笑されたからね!)


おっと危ない。聖女とは程遠い悪い笑みを浮かべるところだったわ…!


「そうでしたか。それは失礼いたしました。では後日、レイ様の部屋も用意しておきますね。」

「えっ! レイは今までも部屋はありませんでしたし、私と部屋を共有していたので大丈夫ですよ?」


私は驚いて申し出を断る。

基本的には姿が見えないレイのためだけに一部屋もらってしまうのは申し訳ないじゃない!


「えぇーなんで断っちゃうんだよー! 俺も自分の部屋ほしぃー」

後ろでレイが嘆いているけど気にしない!


「そういうわけにはいきません。私が、ルーナの部屋に他の男がいるのが嫌なのです。それがたとえ精霊でも。」

「なるほど?」


よくわからないけれど、ノア殿下が言うなら仕方がないですね…


「じゃあせめて隣の部屋でお願いします…」

「はい!」



◆ ◆ ◆


「ルーナの好きな食べ物は?」


「好きな花とかはありますか?」


「行ってみたいところはありますか? 一緒にいきましょう!」



…えーっと、質問攻めに合っています。


(なんか、思っていたのと違うのだけれど…?)


私が知らない間にノア様に持たされていた手紙を見てレイが笑ったのは、そこに求婚の言葉が綴られていたからではない。

では何かというと、

『私の婚約者となり、エユリールで聖女をしないか』

という内容だったからである。

(まさか殿下、気絶の衝撃で私が忘れたとお思いに…? 2回も言葉で攻撃されるとは思っていなかった…!)


「ルーナww初めてのプロポーズが能力目当てとかww るーなちゃんはいつになったら可愛がってもらえるんでちゅかねぇ」


と散々大爆笑されたのには、こんな理由があったのである。

ちゃんと悪臭魔法を鼻に突っ込んで仕返しはしましたけど…

いや! ね! まさか私も『まともなプロポーズを受けられる日は私にはないんだろうなぁ』って常々思っていたから、ちょっと残念に感じつつも納得してしまったのだけれど…


(じゃあなんで、こんなに質問攻めに合っているのかしら?)


「ルーナ、考え事を邪魔するようで悪いけど、着いたよ。」


ノア殿下の爽やかな声で現実に引き戻され、窓から見てみると、大きなお城が立っていた。

さすが大国のお城… 大きいし、装飾が細かくてかっこいいわ!


「わぁ! これがエユリール城ですか! 想像していたよりもずっと大きくてびっくりしちゃいました!」


私はキラキラと目を輝かせる。

これでも私は、かなりのお城好きです。

(いろんな国へ修行に行っている間に、興味を持つようになったのよね… でも、今まで見た中でも、ダントツで大きいわ!)



「ルーナ、この前まであんなに不安がってたのに… 結局好奇心には勝てねーか…」


レイの呆れる声が小さく聞こえた気がする。

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義妹に聖女の称号を奪われた悪役令嬢は、隣国の王太子に拾われました。〜愛を知らない天才聖女、どうやら溺愛されているらしいです〜 世々原よよ @yoyoharaYOYO

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