第11話 『秋来る』

 初秋のさわやかな風が森を通り抜ける頃、魔物の仲間たちはそれぞれの技術をさらに磨き、私たちの森での生活が充実してきているのを感じていた。


 ある日、朝早くから元気いっぱいのポルカがやってきて、採れたての果物や木の実をいっぱい抱えていた。


 彼の目はキラキラと輝いていて、何か新しい発見でもしたような表情を浮かべている。


「聖女さま!今日のごはんは驚くものになるよ!昨日、少し考えたことがあってさ、新しい料理に挑戦してみたいんだ!」


 ポルカは料理が好きで、毎日新しい工夫を凝らしている。森の材料だけでさまざまな料理を作る姿は頼もしく、毎日どんな料理が出てくるのか楽しみでならない。


 今日もポルカは夢中で準備を始め、私は彼が何を作ってくれるのかをわくわくしながら見守った。


 数時間後、ポルカが作ったのは、秋の果物を使った甘みのある保存食だった。

 彼は果物を上手に加工し、食材が傷まないようにしてから保存用の彼の体から生成した密閉できる容器に詰めた。これでいつでも手軽に甘い味わいが楽しめる。


「どうかな、聖女さま?これで冬になってもおいしい果物を食べられるよ!」


「ポルカ、すごい!これで季節を越えて楽しめるね」


 ポルカは少し照れくさそうに笑いながら、さらに保存の工夫や、長期保存用の乾燥食品を作ることを考え始めたようだ。

 彼のおかげで、森での食生活がますます豊かになり、私たちの生活が一層楽しくなっている。


 その後、森の奥から軽やかな足音が聞こえてきた。現れたのはシオン。

 彼もまた、このごろ狩りの技術をさらに磨いており、仲間たちが困らないよう工夫を凝らしていた。


「シオン、お疲れさま。今日も狩りに行ってきたの?」


「森への負担をできるだけ少なくしながら必要なだけ狩る方法を考えてます……」


 シオンは自分の力を過信せず、自然を大切にしながら狩りを行っていた。


 彼は、獲物の数を調整し、取りすぎないように気を配りながら、仲間たちが安心して食事を楽しめるようにしている。


「それって……森全体のことを考えてくれてるんだね。シオン、ありがとう」


 私がそう伝えると、シオンは笑顔を浮かべ軽くうなずいてくれた。

 彼もまた、自分の役割をしっかりと理解し、森に住む者としての責任を果たしてくれている。シオンの優しさが感じられる行動に、私は心が温まった。


 それぞれの仲間が自分の得意分野を伸ばし、生活の役に立ててくれている。


 魔物たちは、ただ森に住むだけではなく、森全体を守り支え合うように変わってきているようだった。

 その成長を目の当たりにするたび、私は彼らが自立していることを誇らしく感じ、嬉しさが込み上げてくる。


 夕方、皆で集まって夕食を囲む時間が訪れる。ポルカの新しい料理やシオンが用意してくれた獲物が並び、温かな雰囲気に包まれる中、仲間たちと共に笑い合いながら食事を楽しむ。


「みんなのおかげで、森での生活がますます楽しくなってるよ」


 私がそう言うと、仲間たちは照れくさそうに笑いながらも誇らしげな表情を浮かべ、さらに新しい技術や工夫について話し始めた。

 この森で仲間たちと過ごす時間が、私にとって何よりも大切なものになっている。




 ******




 

 秋が深まり、森は赤や黄色の葉で彩られ、見渡す景色すべてがまるで別世界のように輝いていた。

 どうやらこの世界には日本と同様に四季があるらしい。しかも春夏秋冬が、ほぼ均等に一年を分けているらしい。

 日本だとなんか夏が長いからなぁ……。


「今年も秋がやってきたね!季節のものをいっぱい使って、新しい料理を作ってみるのもいいかも!」


 ポルカがそう言って目を輝かせると、メルも小さなリスたちと一緒に森を駆け回り、色とりどりの木の実やキノコ、落ち葉を集めてくる。

 木の実を袋にいっぱい詰め込んで嬉しそうに見せるメルを見て、私も自然と笑顔になった。


「見て見て、仲間達ががこんなに集めてくれたの!」


 メルが見せてくれたのは、鮮やかな赤や深い紫色の木の実や、ぷっくりとしたキノコたち。

 ポルカはその食材を丁寧に吟味しながら、新しい料理の構想を練り始めた。


「さっそく今日の夕食に使ってみようか!森の恵みで秋の味覚を楽しむんだ」


 彼はまるで料理人のような顔つきで木の実を一つずつ彼のからだから伸びる手で仕分けし、手早く調理に取り掛かった。

 キノコの香ばしい香りが漂い、リスたちも一緒に興味津々で見守る中、色とりどりの料理が少しずつ完成していく。


 食卓に並んだ料理は、まさに秋の森そのものだった。香り高いキノコのスープ、甘みのある木の実のペースト、ポルカが創意工夫を凝らして作った焼き果物のデザートなど、どれも見た目も美しく、季節の味が詰まっている。


「これが森の秋の恵みなんだね……!」


 ひと口食べるたびに、森の中で育まれた自然の力を感じるようで、私の心も体も温かく満たされていく。

 ポルカもみんなも満足そうに料理を味わい、リスたちも、木の実の欠片を楽しげにかじっている。


 食事が終わると、ガルムが集まった薬草を広げて見せてくれた。


「この薬草たちは、寒さが厳しくなる冬に役立つものばかりだ。少しずつ保存しておけば、いざという時に安心できる」


 ガルムは集めた薬草を保存するための加工法を私に教えてくれる。

 乾燥させる方法や、薬草をすりつぶして小さな薬包にする方法など、彼の教えを聞きながら、私は冬支度の重要さを感じ始めていた。


「こうして薬草をちゃんと準備しておけば、冬になってから困ることも少なくなるね。ガルム、ありがとう」


「いやいや、こちらこそ聖女さまの力もあって、皆のために準備ができている。これからも協力して冬を乗り越えよう」


 ガルムの言葉に、私は改めて仲間たちと過ごす時間の温かさを感じた。

 この森に季節があり、それを仲間と共に楽しみながら乗り越えていくことができるというのは、なんと素晴らしいことなのだろう。


 日が沈み、冷たい風が吹き始める中、私はふと遠くの空を見上げた。


 王都で過ごしていた頃、こんな風に季節の移ろいを心から楽しむことなんていつ想像できただろうか。

 森で仲間たちと共に四季を迎え、自然に寄り添う生活が、今はとても愛おしいものに思える。


 私は紅葉で彩られた森を見渡し、森と仲間たちと共に生きる喜びを感じた。

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