第10話 『夜の賢者の宗教勧誘…?』

 朝の柔らかな光が森に差し込む中、私は夜の賢者こと、フクロウの魔物、リュカと共に森の深い場所へと歩いていた。


 リュカは私に、森と心を通わせる方法を教えたいと提案してくれたのだ。

 心を通わせる方法?なんなのだろうか。

 なんだか宗教チックなきがしてしまうが、リュカの思いやりでしかないと思うので素直に彼の言葉に従うことにする。

 

 彼によると、森に生きるすべてのものはつながり合っていて、静かに耳を傾けることで、森からも癒しを得ることができるらしい。

 ……やっぱり宗教ぽいな。


「森の気配を感じるというのは、ただ木々を見たり音を聞いたりするだけではないのです。もっと深く、自分の心を開くことが必要なのです」


 リュカはそう言いながら、目を閉じて深呼吸をした。

 私は彼の真似をして、目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。

 静かに風の音が耳に届き、葉が擦れるかすかな音が心に響いてくるようだった。


「森と心を通わせると、あなた自身もこの森の一部として感じられるようになるでしょう」


 ……しゅ、宗教ぽい……!


 そんな私の気など知らずリュカは私に集中を続けるよう促した。


 私はしばらく静かに耳を澄ませていると、かすかに木々が囁くような音が聞こえてきた。


 風が葉を揺らす音、草がささやくように音を立てる様子が、まるで私に語りかけているかのように思えてくる。

 おおお、何だこの感覚。


「リュカ……なんだか、森の一部になったみたい。風も、木も、みんなが私と一緒にいる感じがする」


「それが森との調和です。自然のリズムに耳を傾け、心を開くことで、あなたも森と共鳴できるのです」


 リュカは穏やかに微笑みながら、私に寄り添ってくれた。

 なんだか宗教チックな感じは否めないが、リュカの言う通り私はすくなくともこの瞬間は森と一体化し、鼓動を共にしているかのような、そんな不思議な感覚に陥った。


 次第に、森の音が心地よいメロディーのように感じられてきた。


 ざわめきや小鳥のさえずり、そして風の息遣いが、一つの調和となって体全体に染み渡る。

 この不思議な感覚に身を委ねていると、気づけば私の中からも、穏やかな温もりが湧き上がってきた。


「……リュカ、なんだか疲れがすっと消えていくみたい」


「それが自然の力です。森の気配に耳を傾け、自らもその一部として溶け込むことで、心と体を癒すことができるのです」


 リュカの言葉が不思議なほどすっと胸に落ち、私は心の奥から安らぎが広がっていくのを感じた。


 王都で感じていた孤独や不安も、森の中で共に森とリズムを刻むことで自然に消えていくかのようだった。


 リュカの導きに従い、森の中で静かに時間を過ごす日々が増えた。


 呼吸を整えて、風や木々の音に耳を傾け、心を開くたびに、森との一体感が深まっていく。


 日が経つにつれ、私は森の中にいるだけで自然と穏やかな気持ちが湧き上がるようになっていた。

 一種のマインドフルネスみたいなものなのだろうか。どんどん精神が研ぎ澄まされているような感覚になる。


 ある日、リュカが私の様子をじっと見つめ、ふわりと微笑んだ。


「君が森と共鳴してくれて、とても嬉しいです。聖女さまがこの森を愛してくれることが、我々にとっても大きな癒しになるのです」


「私も……今ではこの森が私のお家のように思える。ここにいるだけで心が落ち着くの」


 そう話すと、リュカも深く頷いてくれた。


 彼の穏やかな表情に、私も嬉しさがこみ上げてくる。


 かつて王都で追われ、森に放り出された時には感じると思ってもなかったここまでの安らぎ、いつも共にいてくれる魔物たちと、そして私たちを生かしてくれる森のおかげだ。


 追放されてすぐは絶望の場所でしか無かった森が、今は希望に満ちた場所へと変わった。

 これも森と心を通わすことを教えてくれたリュカのおかげでもある。


 リュカから教わった「自然との調和」は、ただ体を癒すだけでなく、心にも深い安らぎを与えてくれるものだった。


 私の中で、過去へのわだかまりや王都への未練が少しずつ薄れていき、代わりに森の静かな日々がかけがえのないものとして心に根付いていくのを感じた。


 そして、森で生きることこそが今の私にとっての「本当の居場所」なのだと、心から実感するようになっていった。


 ……宗教勧誘とかハマらないように気をつけよっと。

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