第12話 『新たなる家』


 秋の涼やかな風が吹き抜ける昼下がり、ガルムが少し考え込んだ様子で私のもとにやってきた。

 彼は手を顎に当てながら、何か言いたそうにしている。


「聖女さま、少し話があるのだが……」


「どうしたの、ガルム?」


「もっと快適な住まいを用意してあげたいと思ってね。今の小屋も悪くないが、せっかく仲間がいるのだから皆で協力して、君の新しい住居を作ろうと思うんだ」


 その言葉に驚きつつも、胸の中には温かな喜びが広がる。


「新しい住居かぁ…!それってとても素敵な提案だね!」


私が喜ぶと、ガルムは満足そうにうなずく。


「今から冬にもなるしこのままの住居だと聖女様がこの冬を越せるか分からないからな」


「そんなに寒いの?この世界の冬は」


「そうか、聖女様はこの世界に召喚された異界の民か。そうだな、毎年ここら辺は雪が降りしきってここら辺の森一体雪景色になる」


「そうなんだ、じゃあ早めに準備始めないとね!」


 そう私が意気込むと、ガルムはさっそく皆に声をかける。


 ティオ、メル、ポルカもすぐに駆けつけ、


「それ、面白そうじゃないか!」

 

 と賛成してくれた。こうして、皆で新しい住居を作る計画がスタートした。


 まずはガルムが適した木材を調達し、骨組みを作り始める。

 彼のたくましい手が次々と木材を運び、丁寧に組み立てていく姿は、まるで職人のようだ。


 私はガルムの手際の良さに感心しながら、どんどん形になっていく新しい住まいを眺めていた。


「こうして丈夫な骨組みを作り、葉で天井と壁を覆えば、風もしっかりと防げるだろう」


 ガルムは葉を隙間なく編み込んでいき、見る見るうちに立派な住居の骨組みが完成していく。


 そのそばでティオも、

 

「もっと森らしい工夫があっても良いかもな」

 

 とつぶやきながら、少し珍しい葉や枝を集めている。


「これをこうすれば、風通しもよくなるはずだ」


 ティオはガルムが作った骨組みに、湿気を逃すための隙間をつけたり、雨が入りにくい角度で枝を編み込んだりと、森の知恵を生かした工夫を加えてくれる。

 その細かな気配りに、私は改めてティオの頼もしさを感じた。


 次に、メルとリスたちが集めてきた色鮮やかな木の実や葉を使って、住居に可愛らしい装飾を施し始める。


「これでおうちがもっと明るくなるでしょ!」


 メルは赤やオレンジの木の実でリースを作り、入り口に飾ってくれる。


 また、壁のあちこちには花の模様を形作った葉が添えられ、住居全体が温かな雰囲気に包まれていった。

 リスたちもメルの装飾を手伝い、枝に小さな木の実を並べたりして、楽しそうに飾り付けをしてくれる。


 そして、最後にポルカが「ここはぼくの出番だね!」と張り切って収納スペースの改良に取り掛かる。


 彼は食材をしまう棚を増やし、調理道具を掛けられるようにするなど、住まいをさらに使いやすく整えてくれる。

 料理はいつも作ってくれるが、ポルカはそんなことも出来るのか。いい夫になるな、とか月並みなことを思った。


「こうすれば、道具も食材もさっと取り出せるよ。これで料理ももっと楽しめるはず!」


「ポルカ、ありがとう!すごく便利になるね」


 ポルカの工夫のおかげで、食材や道具の管理が格段にしやすくなり、料理をするのがますます楽しくなる予感がした。


 皆が一緒に作業してくれたおかげで、ついに新しい住居が完成した。

 ガルムが組み上げたしっかりした骨組み、ティオの工夫が生かされた通気性の良い構造、メルの可愛らしい装飾、そしてポルカの収納スペース──どこを見ても仲間たちの愛情が詰まっていて、胸がいっぱいになる。


「これで完成だな」


 ガルムが最後に木材を確認し、ティオやポルカも満足げに仕上がりを眺める。

 メルやリスたちは新しい住居を見てはしゃぎ、


「これからここで聖女さまと一緒に楽しく過ごそうね!」

 

 と声を弾ませている。


 夜が訪れ、新しい住居の近くで焚き火を囲んでささやかな宴を開くことにした。

 ティオが見つけてきた珍しい果物で乾杯し、ポルカが作ってくれた焼き果物のデザートが食卓に並ぶ。

 ガルムとメルも、それぞれの好物を持ち寄り、みんなで楽しい時間を共有する。


「あなたのために皆で力を合わせてこの家を作ることができて本当に嬉しいよ」


 ガルムがしみじみとそう言うと、ティオも


「これで安心して、どんな季節でも快適に過ごせるはずだ」

 

 とうなずいてくれる。


「みんな、本当にありがとう。こんなに素敵な家ができて、私……ここが本当に私の居場所なんだって、心から思えるよ」


 仲間たちの温かい気持ちに胸がいっぱいになり、私は思わず目頭が熱くなるのを感じた。


 この森で、皆と一緒に生きていることが、こんなにも幸せなことだと改めて実感する。


 初めてこの新しい住居で眠りにつく夜、私は焚き火の温かさと仲間たちの優しい笑顔に包まれ、ここが本当の「家」になったと感じながら、幸せな気持ちで目を閉じた。

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