第4話 速報生活の終焉
今朝はテレビが壊れていてニュースの音声で目が覚めることはなかった。イヴィは起きてしばらく掛け時計を眺めていたが、やがて時計も壊れていることに気付いた。
いつものように木曽さんが背中を丸くしてベッドサイドの椅子に腰掛け、両手でぴったりとマグカップを包んでいた。中身はすっかり冷めたコーヒー。液体とは思えないほど冷たい暗い色。
「おはよう?」
「うん、そうだね」
朝だよ、と木曽さんは言う。皺だらけの白衣がカーテン越しの弱い光に照らされて浮かび上がっている。ことごとく殴打された白物家電たち。変わらない実験結果。見るからに憔悴した白衣の背中。安易に導かれ得る仮説。しかし、実験が実験である限り科学者は狂ったりしない。結果がどうあれ、分析はすれど憤る必要はない。実際、木曽さんの所作は丁寧で始終落ち着いていた。スチールベッドのパイプがもぎ取られた瞬間も取り乱すことはなかった。目を覚ましたイヴィには、どうして木曽さんに元気がないのか分からない。私は黙って部屋の前を通過する。夥しい数の白い扉が廊下の両側にずらりと並んでいる。どの扉も同一の座標を複製した立体映像で、そっくり同じ顛末を繰り返していた。
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