第3話 交換

 校門近くの背の高い植木のコンクリートに腰掛けている生徒は、話しかけてきた者に対して、どこからともなく取り出した贈り物を差し出す。大小さまざまな品物で、遠い異国の食べ物だろうが珍しい書物だろうが、なんでも取り出せる。自転車のような大きなものも難なく取り出してみせる。彼は、渡した分だけ渡されている。贈り物をしようとする生徒たちが絶えることなく彼を訪問する。今日やってきたのは、自作のハーバリウムを作った生徒、市販のお菓子を包んだだけだと恐縮しながら渡す生徒、リボンつきのテディベアを渡す生徒、コンビニで買った肉まんを差し入れする生徒などなど。つまり、彼らは物々交換をしている。けれど、それ以外の場面ではまったく話さない。目を合わせることさえない。仮想人格たちの世界には愛想笑いが存在しない。観察すると、主人格たちの交流に合わせて、幻子の集合体としてデザインされた彼らが物品の相互受け渡しをしている。時には、何も持たずに何かを渡す仕草だけを交わしていることもある。それを心が宿らない単純な行為の反復だと蔑むことは、そのまま主人格の自虐に繋がる。だから非難する者は皆無だった。実体でないものに魂を宿すには、と仮想世界の創造者が疑問を呈した。それには、実体世界を無くして、仮想人格たちを主人格に代わる唯一の存在としなくてはならないだろう。

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