仕返しをするために

三鹿ショート

仕返しをするために

 悪事を働いた人間は、何時の日か罰を受けるものだと思っていた。

 だが、聞き耳を立てていたところ、派手な格好の人間たちと談笑している彼女は、どうやら幸福な日々を過ごしているらしい。

 そもそも、彼女は私に対する数々の非道な行為を忘却しているようだった。

 他の人間たちは記憶しているらしいが、余計なことを口にすることで彼女の機嫌を損ねることに抵抗を覚えているのか、私に関する情報を伝えようとはしていない。

 やはり、同窓会などに出席するべきではなかった。

 成長し、心を入れ替えた彼女が私に対して謝罪をするのではないかというわずかな期待を胸に出席したが、どうやら私の脳内には花畑が広がっていたようだ。

 私は誰にも告げることなく、会場を出、帰り道の途中に見かけた居酒屋へと入ると、浴びるように酒を飲んだ。

 隣で飲んでいた男性と会話をしたが、その内容までは憶えていなかった。


***


 呼び鈴が鳴ったために、頭痛に顔を顰めながら応ずると、扉の外には何処かで見たことがあるような男性が立っていた。

 首を傾げていると、男性は、昨夜隣で飲んでいた人間だと告げた。

 私が思い出すと同時に、男性は持っていた鞄を私に示すと、

「この中に、あなたが求める商品が存在すれば良いのですが」

「私が、何を求めたのか」

「憶えていないのですか。かつて自身を虐げた人間がのうのうと生きていることに怒りを覚え、報復の一つでも実行したいと口にしていたではありませんか」

「確かに、昨日の私がそのようなことを考えても仕方が無いような出来事があったことは事実だが」

 私の言葉を耳にすると、男性は微笑を浮かべながら、再び鞄を示した。

「再びの説明となりますが、私は個人で様々な商品を開発しているのです。もしかすると、あなたの報復行為の助けとなるような商品が存在している可能性があるのです」

 男性がどのような商品を開発しているのかは不明だが、他の人間に聞かれてしまっては不都合が生ずることも考えられるために、私は男性を室内に入れることにした。

 室内に入ると、男性は鞄の中から様々な商品を取り出していく。

 数々の商品の説明を耳にした中で私が気になったものは、自身と他者の意識を入れ替えるという器械だった。

 自分と他者が同時に器械の突出した部分を押すことで、二人の意識を入れ替えることが可能らしい。

 これならば、私が彼女の肉体を奪って痴態を演ずることで、その評判を地に墜とすことも可能となるだろう。

 ただ、彼女が自由に行動することができないようにするために、彼女の意識が入った私の肉体を何処かに縛り付けておく必要がある。

 それに加えて、見張りの一人でも必要だろう。

 誰に協力を求めるべきかと考えていると、男性は己を指差しながら、

「それなりの代金を頂戴するために、それくらいの協力はいたしましょう」

 これは、渡りに船である。

 男性の提示した金額には驚いたが、溜飲が下がるのならば、これほどの出費は仕方がない。


***


 彼女の肉体を奪い、しばらく痴態を演じた後、私は自身の肉体に戻ろうとしたが、それは不可能だった。

 男性いわく、器械が故障してしまったということだった。

 困った事態に遭遇することとなったが、一週間ほどが経過した後、男性から連絡が入った。

 持ち歩くことが不可能な大きさと化してしまったために、研究所まで来てほしいということで、私は彼女の意識が入った己の肉体と共に、男性の研究所へと向かった。

 研究所という言葉から、怪しい雰囲気の建物を想像していたが、其処は郊外に存在する、何の変哲もない一軒家だった。

 我々を地下室に案内すると、男性は新たな商品の説明した後、

「第三者が存在していると不都合が生ずるために、私は部屋を出ています。終了後、声をかけてください」

 男性が扉を閉め、やがて階段を上る足音が耳に入らなくなったところで、私は新たな商品を起動させることにした。

 元の肉体に戻った彼女が、これからどのような日々を送ることになるのか。

 それを考えただけで、笑いが止まらなくなる。


***


「何ですか、この部屋の有様は」

「ようやく来てくれたか。見ての通りである。このような結果と化すことは分かっていたのだが、それでも掃除は大変なものだ。助手として、手伝ってほしい」

「これも仕事の一つだということならば、手伝いましょう。ですが、何が起きれば、このような事態と化すのですか」

「自分と他者の意識を入れ替える器械があっただろう。それを使ったのだが、故障してしまったために、意識を元の肉体に戻すことができなくなってしまったのだ」

「そのこととこの部屋の有様に、どのような関係があるのですか」

「あの器械を開発するために、長い年月を要したことは知っているだろう。一刻も早く客を元の身体に戻してやりたかったのだが、それもまた、難しい。ゆえに、私は考え方を変えたのだ」

「どのように変えたのですか」

「その客は、自身を虐げた人間に対して報復するために、その人間の肉体で痴態を演ずることで、評判を地に墜とそうと決めたのだ。確かに、客が受けた屈辱的な行為の数々は、同情するべきものだったが、客は、同じような行為に及んだのである。つまり、この二人は、共に唾棄すべき存在なのだ。そのような人間が生きていれば、今後、新たな問題が発生する可能性が考えられるだろう。ゆえに、私は、起動させた人間の肉体が破壊される商品を開発したのだ。勿論、客には自分の肉体に戻ることができるという説明をしたがね」

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