char 戦う理由()

——翌日。

隆太は朝一から騎士団の訓練に使われる訓練場で剣を振っていた。

ただ無心に、ひたすらに剣技を突き詰めていく。



——昨日その身に直接体験したあの剣技は今の自分よりも遥か遠くにあるものだった。

極み、ともいえる体の動き、剣筋。

その感覚をできる限り思い出し、この身になじませようと剣を振る。

そうしていると、いつの間にか隣に人が来ていることに気が付く。

隆太は、その人物を見ると少し驚いたもののすぐに挨拶をする。



「おはようございます!リーゼさん!」

「おはよう。君も朝から鍛錬か。……あの剣に触発されてか?」

「……はい、そうですね」



隆太がそう答えると、リーゼは頷き、無言で素振りを始めた。

隆太もその横で同じように剣を振る。


まるで一瞬ですら一時間のように感じるような濃密な鍛錬の後、

二人は休憩をはさむことにした。

二人は水分をとりつつ、雑談をする。



「……リーゼさん、ケガはもういいんですね」



隆太がそう聞くと、リーゼは腕を回しながら答える。



「あぁ。君たちの聖女様に治療をしてもらった。やはりとんでもない力だな。君たちのそれは」



聖女とは、隆太のクラスメイトの一人であり、『聖女』の力を貰った少女、桜井美和のことである。

彼女は騎士は辞退したものの、治癒院に入り、けが人の治療を行っている。



「まぁ、貰い物ではありますけど、有難い力ではあります。俺達、戦いがあるような世界から来たわけじゃないんで」


「……隆太はそんな力があっても鍛錬を積むんだな。君達の力はこうした鍛錬無しで扱えるような力ではなかったんじゃないか?」



リーゼは他の異世界人たちの事を考える。



「まぁ、そうなんですけど。でも、いつも引っ掛かっていたものが取れるような感じがして。なんか、じっとしていられなくなったんです」



隆太がそう言うと、リーゼは「一緒だな!」と笑った。



「私もだ。あの剣技は、私が到達している段階の数段先を行っていた。まさに、『神の剣技』だな」



——あの後、リーゼ団長には事情を説明した。

元々、事情が事情であり、そのうちに相談しようと思っていた内容ではあったのだが。

しかし、現状手詰まり感が強く、相談してもどうしようもない、もしくは荒唐無稽だと信じてもらえない可能性もあったため、話すことを保留にしていたのだ。


それが、昨日のあの事件。

流石に一通りの事情を理解してもらう為に洗いざらい話した。

自分は神様から神の力そのものを与えてもらったこと、しかし途中で邪魔が入ったことで力の受け取りは上手く行われず、その欠片がこの世界に散らばってしまったこと。



リーゼは先ほどの能力に何か感じるところがあったようで、すんなり受け入れてくれた。

そして力の捜索をするために情報収集を行ってくれることを約束してくれた。



『あの力、隆太が持つ分には問題がなさそうだが、普通の人には耐え切れんかもしれない。それぐらい、やばい何かを感じた』



リーゼ曰く、おそらくその石は内封されている力を中心とした騒動が起こる可能性が高いだろうから、情報収集していれば騒動等で見つかるだろうとのことだった。



——話は戻る。



「私は騎士団長だが、まだまだ若輩者のひよっこだ。最近ようやく先代と斬り合えるようになったぐらいで、まだ彼の全盛期には程遠いだろう」



リーゼは拳をぐっと握る。



「だから、あいつに後ろを取られ、動けなくなる事態に陥ってしまった。……隆太がいなければ、私は死んでいただろうな」


「……」


「だからこそ、少しでも力を高めていく。今度は不意を突かれないように。不意を突かれても、対応できるように」



リーゼはそう言い切り、隆太の方を見る。



「……すまないな。私の話になってしまった」


「いえ!全然問題ないです!俺だって、今度は危険な選択肢を取らなくても誰かを守れるように強くなりたいです!」



そう言って笑う隆太をリーゼは少し複雑そうに見つめる。

そして、思わず言葉がこぼれた。



「……君は、君達は、どうして戦うんだ?」



そう言った瞬間、リーゼはまずいことを言ってしまった、とばかりに口を抑える。



「……どうして戦うのか、ですか?」


「……いや、すまない。忘れてくれ。君たちは戦わなければ元の世界に帰れないのだったな。失言だった」



そう言って頭を下げるリーゼ。

隆太は少しきょとんとした表情の後、頭を掻いた。



「……いや、確かにそうですよ。こっちの世界の問題を解決しなきゃ、俺たちは元の世界に帰れません。そのために戦っているのは、そうです。でも」



隆太は強い思いをこめて話す。



「俺は、目の前で他人が傷つくのをただ見ているっていう選択肢は選べません、ただ、それだけの話なんです」


「それだけ?」


「はい。目の前に困っている人がいて、俺が少しでも助けになれる。それなら、助けるのを留まる理由なんて、何もないじゃないですか」



「そう、か……」



リーゼは、少し驚いたような表情をしている、

まるで、そんな事を考えているなんて思ってもいなかったかのような。

リーゼは少し笑うと、「……ありがとう」と小声でつぶやいた。



「あ、今、なにか言い……」



隆太がそう聞き返そうとした瞬間。

鐘の音が辺りに響き渡る。

この合図はバグルート襲撃のものだ。

リーゼと隆太はすぐに立ち上がり、一目散に駆けていく。




——現場に到着したのは、リーゼと隆太が一番だった。

朝一ということもあり、すぐに動けるものが少なかったせいもあるのかもしれない。

目の前にはバグルートが。

バグルートは体を震わせ、周囲にヘドロのようなものをまき散らす。

そのヘドロは徐々に形を変えていくと、まるで兵士のように同じ姿の怪物へと変貌した。

それを見たリーゼはチッと舌打ちをした。



「……!隆太は本体を頼む!私は周りの奴を相手しながら避難誘導を行う!」


「!了解です!」



隆太はそう言うと、すぐにドライバーに赤の神石を装填し、ボタンを押す。



『武神!』



鎧は高速に装着され、そのまま隆太はバグルートに一発ラリアットをかます。

バグルートはその一撃で吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がった。



リーゼはすさまじい勢いで周りのバグルートを殲滅していく。

一刀一人といった感じで逃げ遅れた市民にその魔の手が及ばないように切り捨てていく。

隆太もそれに負けじと剣を召喚し、渾身の一撃をバグルートに叩きつける。

バグルートは高速で動き、一撃を加えようとしてくるが難なく躱し、隆太はカウンターを食らわせていく。



「やはり流石だな……」



リーゼは周囲に気を配りつつ、出来る限りその技を盗もうとバグルートと隆太の戦いに目を向ける。



「これで終わりだ!」



相手の攻撃をひらりとかわし、こちらの攻撃をことごとく命中させていき、ついに大きな隙を見せたバグルートに隆太は神石を回転させ、ボタンを右、左と押した。



『ラグナロク:シュート』


「やぁぁぁぁぁあああ!!」



高く飛び、落下の勢いを利用したキックは見事に敵に突き刺さり、バグルートは爆発を起こした。

やがてその爆発が収まった後、そこには男性が一人倒れていた。

隆太は昨日の事を思い出し、周囲に警戒しつつ変身を解いた。



『Return Zero』



リーゼも周囲を見回し、もう脅威がない事が分かると、ふぅ、と息をついた。

そして、思い出したように隆太に声を掛ける。



「……!そうだ、隆太に話があるのだが……」






——その数日後、騎士団長のデスクにて。



「なんで、異世界人を特任騎士なんかにしたんすか、団長!」



一人の少女がリーゼと向き合っていた。

少女の名前はミスカ。最近騎士へと叙勲された新米の騎士だ。



「仕方ないだろう。私の権限では特任騎士が限界だったからな」


「そうじゃなくて!……異世界人に不満を持ってるやつも多いっす、あいつら、いつも……!」



声を荒げるミスカに対し、リーゼは落ち着いた口調で諭すように話す。



「しかし、バグルートを個人で倒せる戦力は貴重だ。今は一人でも多く、使える戦力を投入していきたい」


「……!もういいっす!」



そう言ってミスカは部屋から出ていく。

その様子を見た、リーゼはため息をついた。




一方その頃。

隆太はあの感覚を忘れないために剣を振り、剣技を体になじませようとしていた。


そんな時。



「り、隆太君!」

「隆太!」



隆太は自分の名前を呼ぶ二人の声に素振りをやめる。



「志江さんと、文太君……?」



二人は、この世界に転移後仲良くなったクラスメイトだ。

志江は隆太と同じように騎士を辞退し騎士見習いとして頑張っている少女で、文太は騎士として日々頑張っている少年である。

志江は当然として、文太は結構こっちでも体を動かすことが多く、その関係でよく話をするようになった。



「特任騎士になったんだってね!おめでとう!」



志江にそう言われる隆太。



「凄いな、実力で騎士になるなんて!俺も早く騎士に見合う実力になりてぇ~!」



文太はうんうんと頷きながら隆太に言った。



「ありがとう!」



隆太は二人に感謝を伝える。

しかし、文太は少し不思議そうに首を傾げた。



「しかし、隆太はチート能力、無かったんだろ?今になって目覚めるとか、どういう事だ?」

「あぁ、それは……」

「すまない、君が隆太か?」



隆太が事情を説明しようとすると、声がかかった。



「あ、ゴルンさん、どうしたんですか?」

「お、文太もここにいたのか、丁度いい。お前も来てくれ。今から新人が入ったことによる警備配置の会議を行いたいんだ。」


「「分かりました!」」



隆太と文太はしっかりとした返事をすると、志江に向き直る。



「じゃあ、俺達、これで行くわ。また今度、ゆっくり話そうな!」

「……うん!分かった。またね!」



そう言って、文太と隆太はゴルンについていき、志江は一人取り残された。

志江はぎゅっと拳を握った。



「……私も……」





~~バグルート図鑑~~


スピードバグルート

身長:210.3㎝

体重:72.6㎏

特色/力:高速移動



バグルートの一体。

○○が〇に○○ことによって生まれてしまった○○○○〇。

○○も、○○も○○に○○され、○○する。

高速移動を主軸に手数の多い攻撃をしてくる。



ミリオンバグルート

身長:168.5㎝

体重:63.8㎏

特色/力:統率された行動



バグルートの一体。

バグルートが自身から生み出す欠片のようなもの。

ある程度成長したバグルートから生み出される。

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