第53話
手に取った簪を持ち、私の前に来る。
そして私の前に差し出した。
花飾りがついていて奇麗な簪。
「えっ」
「恥かかせちまったお詫びです」
「そんな、私は別に。だいいちそんなつもりないし貰えません」
「なら出世払いで。もちろん使ってみて気に入らなきゃあ返してくれればいい」
みんなの視線が私に集中している。
でも私は目の前にいる竜さんの目から自分の目が離せない。
力強くてまっすぐな視線。
「紅若。あんたが受け取らなければ、今度はあんたが竜さんに恥をかかせたことになるよ」
女将さんが笑みをたたえてやんわりと言う。
たしかにそうだ。
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