6 大波多莉緒その5


 「あ~……つっかれたぁ……。さすがにしんどー」


 行為が終わり、大波多さんが大きく息を吐いた。そのまま僕の身体の上にしなだれかかってくる。

 豊かな膨らみがむにゅりとひしゃげて、柔らかさと温もりをこれでもかと伝えてきた。反応しそうになるのをぐっと堪える。

 ……ちなみに現在、大波多さんにホールインワン状態である。彼女のねっとりした温かさがどうしようもなく心地いい。

 うん、ダメだ、こんなの我慢できっこないや。


 「……ケンケンの、またおっきくなってきてんですけど?」

 「ごめん、大波多さんの身体が気持ち良すぎて……」

 「ほんっと早撃ちのくせして回数だけは立派なんだから。こういうのゼツリンっていうんだっけ?」

 「そこも含めて申し訳ないです」

 「べつにいいけどさ。あーしとしてもたくさん楽しめるわけだし♡」


 目と鼻の先ではにかみながら、ちゅっとキスを落としてくる大波多さん。隙間から舌を捻じ込まれ、ねちっこく攻め立ててくる。

 こっちもこっちで気持ち良くて、頭がどうにかなりそうだ。


 「ぷぁ……っ♡ んじゃ、もっかいイッとこっか?」

 「その、しんどいなら無理しない方が」

 「女は度胸、男は愛嬌っていうじゃん? だから、あーしはやり遂げるつもり」

 「いやそれ逆――うっ」

 「あーしに気なんか使わなくていいから♡ 好きなだけっ、気持ちよくなっちゃえ――♡♡」


 ツッコミを入れ終わる前に、身を起こした大波多さんが、大きなお尻でヒップドロップを決めてきて。

 頭のなかがだんだんと、真っ白になっていったんだ――。




 


 「ふぅ……さっぱりした」


 何度も何度もヒップドロップを決められ、欲望を根こそぎ奪われたあと。

 僕は大波多さん家のシャワーを借りて、汗を流した。これまた借りたタオルで身体を拭き、制服に袖を通す。

 そのまま玄関先に向かうと、スウェット姿の大波多さんがスマホをいじりながら立っていて。

 僕の姿に気づいた彼女が振り返り、わざとらしく口元を覆ってみせた。


 「ぷふっ♡ ケンケンってば、水も滴るいい男になってんじゃん♡」

 「気のせいかな……笑われてるように感じるんだけど」

 「そんなことないっての。あーし、ウソだけはつかないから」

 「そっか。大波多さんは立派だね」

 「うっ……」


 僕の反応に気まずそうに目をそらす大波多さん。とはいえこっちもツッコんだりはしない。

 さっきまで突っ込みすぎたせいだろう、いろいろ枯れてしまってるのだ。でも彼女に対する愛おしさみたいなものだけは残ってるようで、そんな子どもじみた反応すらも可愛くて仕方がなく感じる。

 

 「えっ、なにその目、慈愛に満ちすぎじゃない? あーしのこと、ウソつきの子どもみたいだとか思ってるわけ?」

 「ううん、ただ見惚れてただけだよ。大波多さんがあんまりにも綺麗だから」

 「っ!? あ、あり、がと……♡」


 僕の言葉に、大波多さんが珍しく動揺している様子だ。ぜんぜん目を合わせてもらえない。

 それがちょっと――いや、かなり寂しかったので、彼女の顔を覗きこむようにして、目を合わせにいく。

 視線が触れると、大波多さんの顔が真っ赤に染まっていった。


 「な、なに!?」

 「ええっと、やっと目が合ったなって」

 「~~っ、い、陰キャぼっちのくせに生意気っ! あんまり調子乗ってると、あーしの友達あてがっちゃうからっ! 陽キャ男子との友情築かせちゃうからっ!!」

 「あっ、それだけはっ、それだけは勘弁してください……!」


 僕は慌ててその場に平伏した。それだけはマジでシャレにならない。いまのこの素敵な毎日に横やりが入ることだけは避けねばならない。

 身体を震わせじっと耐え忍んでいると、頭上から「ごめん」という一言が。

 思わず顔をあげれば、しゃがみ込んでいたらしい大波多さんと目が合って、


 「いまのウソだからさ、気にしなくていいから。それと、陰キャぼっちって言ったりしてごめんね?」

 「べつにいいよそんなの。僕が好きでやってるんだし……それに僕はこうして、大波多さんと会えるこの時間の方が大切だから」

 「うん、あーしもだよ。ケンケンとのこの時間が好き」


 彼女がはにかみながら、優しいキスを落としてくる。小さなリップ音が空気と混ざっては消えていく。

 それがなんだか寂しくもあるけど……でも、大波多さんとはまた会えるから。

 

 「それじゃ僕、帰るね」

 「っ……ねぇ、うちに泊まったりしてかない? 親にはさ、上手く言っておくし」

 「そうしたいのはやまやまだけど……ほら、帰らないとあの二人に怒られちゃうから」

 「そっか。ん~、残念っ♡」

 「だから、また明日ね」

 「ん、ケンケンまた明日っ!」


 彼女も名残惜しく感じてるのか、頬っぺたを膨らませていたけど。

 すぐさま笑顔に切り替えて、ひらひらと手を振ってくる。

 

 僕も同じようにアクションを返しながら、大波多家をあとにするのだった。

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