第2話 対話 そして承認
あの後フォンさんから部屋をもらった。そこは凄く綺麗な部屋だった。何故かは分からない。ここは何処かも分からない。でも初めて会った人に優しくしてもらえた。明日改めてフォンさんに聞いてみよう。「何故助けてくれたの?」って。
次の日
フカフカのベッドから起きた。初めての経験だ。体は痛まないし、怒鳴り声も聞こえない。不思議だ。
部屋から出て、昨日話をした一番広い部屋に向かう。
「サイトウ!ご飯あるわよ〜♡な〜んてね。おはよう。」
「おはようございます。フォンさん。」
「なに?そんな暗い顔して。もしかしておね…んぐ!」
「そこまでだフォン。新入りにセクハラはダメだ!」
ケンジさんがフォンさんを制止する。
「ふぁ〜あ。おはよう世界。夫婦漫才は自室でやらんか。あまりにお熱くて溶けてしまうわ。」
レオセンさんが部屋から出てきた。
「夫婦だと…これと、俺がぁ!?侮辱は程度をわきまえなきゃいけないんだぞ!ほらフォンも言ってやれ!」
「まったくこれなのかなんなのか…まともなのは私だけなのね。」
「お前が言うな!」
「言えた身ではないだろうて。それはそうと、おはようサイトウ君。よく寝れたかい?」
「おはようございます。ケンジさん。レオセンさん。」
挨拶をしたら唐突にケンジさんの名前が浮かんできた。
ケンジ−カトウ
それはそうと聞く予定の質問をフォンさんにする。
「フォンさん。なぜ僕を助けてくれたんですか?」
上がった口角を下ろしてフォンさんが答える。
「昔の同僚がお前のような顔をしていた時期があった。それは仲間を失って帰ってきたときだ。私はあまり対話が得意じゃない。でも置いていけなかった。明確な理由は正直分からない。でも、退職して帰ってた私にとってサイトウ君が他人事に思えなかったのさ。」
フォンさんの話を聞いて僕は泣いた。唐突に。でもただ泣きたかったのかもしれない。きっかけはどうであれ。
「ありがとう、ございます。本当に本当に…」
「なんて顔で泣くんだい。こっちまで泣きたくなっちまう。」
フォンさんが僕に抱きついてきた。
「私はサイトウ君の事を何も知らない。でも一言だけ言わせて。もう大丈夫だから。」
「さっきまでセクハ…」
「無粋だぞケンジ。黙って見守ろうか。」
静かな部屋を僕の泣き声が満たした。
あれからしばらく一緒に仕事をした。ある日は、フォンさんと共に大きな建物へ行った。名前を把握したり、おつかいをしたり、掃除したり、色々な事をした。そんな日々が楽しくてしかなかった。初めて人と対面して話た。それが凄くうれしかった。
しばらく経ったある日
「そろそろハチグマの情報も集まってきたわ。仕事を始めるわよ。」
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