きっと大事なのは言葉と仲間なんだろう
なうなす
前章
第1話 転移 そしてフォン
空の酒瓶と雑に置かれた灰皿。畳は少しくろずんでいて、端の方にある敷布団はグチャグチャだ。外れかかったカーテンの間から漏れた光。まるで今の僕の気分のようだった。
僕は斉藤、歳は16である。
両親を紹介しよう。
今の父は何もしなければ僕を叩かないから好きだ。でも母は嫌いだ。何もしてないのに「なんで私が!」から始まる罵倒をしてくる。
そんな僕は小さい頃に読んだ本に憧れ、今まで生きてきた。顔をちぎって皆の飢えを満たし、助けを求めれば助けてくれる。そんなヒーローだ。
僕もいつかあんなヒーローになりたかった。右手の傷跡を見る。この傷跡を見ると今生きてる事を実感出来る。酒瓶の破片でまた傷を付け足す。痛みで震える腕を見る。真っ赤な血が垂れている。
「あぁ…生きてる。まだ生きてる。」
でも僕は今日死ぬ。上手く締まらないドアを開け、階段を登る。カツカツとなる足音が自分の終わりへと近づく感覚を実感させる。ドアを開け、外に出る。風が少しだけ吹いている。髪がユラユラと揺れる。柵の上から下を見る。車がヒュンヒュンと通り過ぎる普通の道路だ。でもその普通の上に落ち、僕は死ぬ。
もう、僕も終わりだな。
最後に思った。僕がこうなったのは、運が悪かっただけなのかと。もし愛されていたら、もし信じられる他人がいれば………と。居もしない他人の顔を思う。
足を前に出した。ガッっと靴が滑り、落ちる。すぐ死を確信して目を閉じる。
「こんな所でどうしたの?」
少し低めの女の人の声だ。目を開ける。周りを見てもピンとこない。知ってるようで知らない場所だ。
「ねぇ。どうしたの?ていうか聞いてる?」
取り敢えず返事をしようとするも、久しぶり過ぎて声が上手く出ない。結果口がパクパクと動くだけ。
「…まるで仲間を失った兵士のようね。よくわからないけど見捨てるには可哀想ねぇ…」
話しかけてきた女性はう〜んと顎に手を当てて悩んでいる。取り敢えず返事をしなければ。
「あ、あの!僕は…」
緊張と不安からか言い切れずフニャフニャになってしまう。
「え、なんて?」
「僕は斉藤って言います!」
勢いよく名前を言い切った時一つ疑問が浮かぶ。
「ここは何処だろう?」
口に出てしまった。
「サイトウ君ね。こんにちは。」
唐突に一つの単語が頭に浮かぶ。
「…フォン−イーハン。」
咄嗟に口に出てしまった。その言葉を聞いた彼女はすごい勢いで建物と建物の間まで僕を運んだ。僕は抵抗する気力なんて無かった。
「私の名前を何故知っている!」
彼女が聞いてくる。
「頭の中で唐突にその名前?が浮かんだんだ。それで気付いたら口に出てて…」
出来る限りの説明をする。それを聞いて彼女は眉間にシワを寄せながらまたう〜んと悩みだした。少し経ってから彼女が僕に話しかけてくる。
「唐突にその名前が浮かんだのよね。」
「は、はい。」
「唐突ねぇ。取り敢えずあやまるわ。ごめんなさい。さっき仕事辞めた後だから刺客が来たかと思って焦ったのよ。」
その後「これは使えそうね。」と一言言った彼女に袋を被せられて何処かへ運ばれた。
「よいしょっと。」
袋を外される。そこは少し広めの部屋で、真ん中に二人座っている。
「フォン〜。人攫いは犯罪だぞ〜。
ニヤニヤとした顔の男が、フォン−イーハンに話しかけている。いや、絡んでいるのか?
「バカンス中の老人だ。今だけはAXEじゃないわ。ケンジ…態度くらい改めたらどうだ?一応ここの市長の息子だろうて。」
こっちは父と同じくらいの歳の男だ。
「縁切ったの知ってるだろ!はぁ…そもそもバカンス中じゃなかったら絡まねぇよレオセン。AXEの隊長だぞ?敬語塗れになっちまうわ。」
言い合ってる男二人を見ていたら、フォン−イーハンが話しかけてきた。
「私達は一時的に集まったチームなの。目的は一人の男を追うこと。男の名前はハチグマ。サイトウ君をここに連れてきた理由は一つ。」
フォン−イーハンが凄い顔をしている。
「手伝ってちょうだい!突然とはいえ、知らない人の名前がわかるのでしょう?これはきっと役に立つわ!」
「名ま、」
「ありがとう!サイトウ君!そうそう思い切りの良さは評価点よ!あぁ、もちろん報酬は渡すわ。」
言い切る間もなく手伝う事になった。
取り敢えずレオセンとケンジの二人に挨拶をしていたら、フォン−イーハンが。
「私はフォン−イーハンよ。知ってると思うけど。」
「あっはいフォン−イーハンさん。」
「フォンでいいわ。」
「フォンさん…」
凄い勢いで僕は人探し?を手伝う事になった。でもなぜかとってもワクワクしている。
−後書き−
第一話を読んでくれてありがとうございます!
感想、質問等は遠慮なくしてくださると嬉しいです。
勢いに流されてた主人公のサイトウは今後どんな奴に出会い、何を思うのか。周りの人々よ因縁を全て解決し、最後、サイトウはどうなるのか?
是非この物語を楽しんでもらえると嬉しいです。
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