第22話

音楽室での練習が終わり、美咲は自転車に乗って帰宅する途中、空を見上げた。夕焼けが美しく、オレンジ色に染まる空に悠斗との思い出が浮かんでくる。以前の美咲なら、この風景を見るたびに寂しさや孤独を感じていたかもしれない。しかし、最近の彼女はどこか違っていた。


悠斗とのやり取りを通じて、彼が遠くにいてもお互いに繋がっていることを実感し、美咲の心は少しずつ前向きに変わっていった。彼との別れが成長への一歩であることを理解し、悲しみだけではなく、自分を新しい挑戦へと駆り立てる力に変わっていた。


家に帰ると、美咲はリビングで母と軽く話をした。母は、美咲が少しずつ元気を取り戻していることに気づいていたようで、「最近、頑張ってるみたいね」と優しく微笑んだ。「悠斗くんが引っ越して、寂しいかもしれないけど、美咲もすごく成長したと思うわ」と言ってくれた。


その言葉に、美咲は少し照れくさそうに笑った。「うん、寂しいけど、頑張らなきゃって思ってる。悠斗も新しい学校で頑張ってるから、私も負けないようにしないとね」と答えた。


母との会話が終わると、美咲は自分の部屋に戻り、机に向かって作詞ノートを開いた。最近、自分の気持ちを歌詞にしてみたいという思いが強くなっていたのだ。悠斗と過ごした時間や、彼との別れから感じたことを、音楽に込めて表現したいという新しい目標が芽生えていた。


「私の中にあるこの気持ちを、どうやって言葉にすればいいんだろう?」と悩みながらも、少しずつペンを動かしていく。書き始めた歌詞は、彼女の心の中にある寂しさや、未来への希望を映し出していた。


そんなある日、美咲はクラスメートの中島から声をかけられた。「美咲、今度の文化祭でバンドのステージに出るんでしょ?よかったら、僕たちのバンドとも一緒に演奏しない?」


中島は同じ音楽部に所属しているクラスメートで、彼もまたバンド活動に熱心だった。文化祭が近づくにつれて、音楽部内では複数のバンドが集まり、合同でのパフォーマンスを計画していた。


美咲は少し驚いたが、「一緒に?私でいいの?」と尋ねた。中島は「もちろん!美咲の演奏はいつも素敵だし、ぜひ参加してほしいんだ」と言ってくれた。


この誘いに美咲は迷いながらも、最終的に「いいよ、やってみる!」と答えた。悠斗と過ごした日々が、彼女に自信を与えてくれたのだ。彼がいた頃の自分とは違い、今の美咲は新しい挑戦を恐れずに受け入れられるようになっていた。


その夜、再び悠斗からメッセージが届いた。


「文化祭の準備、どう?俺もこっちで文化祭のバンドステージに出ることになったよ!」


そのメッセージを読んで、美咲は嬉しくなり、すぐに返信を打った。


「私もバンドに誘われたよ!一緒にステージに立つのが楽しみ!」


二人はそれぞれの場所で、同じ目標に向かって進んでいる。美咲は、悠斗がいなくても自分自身の力で前へ進んでいけることを実感し、新たな一歩を踏み出す決意をさらに固めた。


「悠斗も頑張ってる。私も負けないようにしないと!」と自分に言い聞かせ、美咲は文化祭に向けて、仲間たちと共に一生懸命練習に取り組んでいった。


彼女の心には、音楽への情熱と、悠斗との強い絆が息づいている。そして、文化祭のステージが、二人にとって新たな成長の場となることを感じていた。


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