第23話

文化祭まであと数日となり、学校全体が準備に追われていた。教室は飾り付けのために色鮮やかなポスターや装飾品であふれ、廊下では生徒たちが笑い声を交わしながら忙しそうに歩き回っている。美咲の心も、その賑やかさに影響されるように高揚していた。


「やるしかない!」と自分に言い聞かせ、美咲は音楽室でのバンド練習に力を注いでいた。中島のバンドメンバーとも息が合ってきて、ステージに向けて順調に進んでいるのがわかる。練習の合間、ふと窓の外を見れば、明るい陽光が差し込み、まるで新しいスタートを祝福しているかのようだった。


「美咲、本当にうまくなったよね」と中島が感心した様子で言った。「最初は少し緊張してるのかなって思ったけど、今じゃ完全にバンドの中心だよ。」


美咲は少し照れながら「ありがとう。でも、みんなが支えてくれてるからだよ」と答えた。悠斗との思い出や経験が、今の自分を強くしてくれていると感じる瞬間だった。


練習が終わると、美咲は家に帰りながらふとスマートフォンを取り出し、悠斗にメッセージを送った。


「練習、順調にいってるよ。もうすぐ本番だし、ドキドキしてる!」


悠斗からの返信はすぐに届いた。


「俺も同じだよ!なんか不思議だよね、お互い離れててもこうして同じ目標に向かってるなんて。でも、頑張ろうな!」


そのメッセージを読み、美咲はさらに気合いが入った。離れていても、こうして繋がっていることが、彼女にとって大きな支えになっていた。


その夜、美咲は机に向かい、文化祭のステージで披露する最後の曲の歌詞をもう一度見直していた。悠斗との思い出、そして今感じている自分の成長――それらすべてを込めた歌詞だった。


「これでいいのかな?」と自問しながらも、ペンを持つ手は止まらない。言葉が次々と浮かび、心の中で形になっていく。悠斗との別れを乗り越え、自分自身を強くするための一歩を踏み出した美咲。彼に伝えたい気持ちや、これからの自分に向けたメッセージが詰まっているこの歌詞を、どうしても完璧な形で届けたいと思っていた。


翌日、練習の合間に美咲はバンドメンバーたちに完成した歌詞を見せた。中島はそれをじっくりと読み、「すごくいいよ、美咲。これはステージで絶対に響くね」と言ってくれた。


「本当に?」と美咲は少し緊張しながらも、自分の言葉が仲間たちに届いたことに安堵を感じた。


そして、いよいよ文化祭当日が近づいてくる。学校の雰囲気はさらに盛り上がり、美咲のクラスでも最後の準備が進んでいた。文化祭のメインステージでバンド演奏をするというプレッシャーが日に日に増していく中で、美咲は不思議と自信を持っている自分に気づいた。


悠斗の存在が心の支えになり、自分を信じて突き進む力を与えてくれている。彼がどこか遠くで頑張っていることを思うと、もう怖いものなど何もなかった。


「私、頑張るよ」と自分に言い聞かせ、美咲はステージに向けて一歩一歩、確実に準備を進めていった。


そして、文化祭のステージが美咲にとって、新しい自分を見つける大きな舞台になることを確信していた。


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