第20話

引っ越しの日が近づくにつれ、美咲の心の中には様々な感情が渦巻いていた。悠斗との思い出が心に刻まれ、彼との別れが現実となることが怖くもあり、同時に新たな挑戦に向けての期待感もあった。


引っ越し当日、晴れ渡った空の下、美咲は友達と一緒に悠斗の家へ向かった。最後の見送りをするため、彼女の心は切なくてたまらなかった。公園で過ごした時間が、今やかけがえのない宝物であることを再確認していた。


悠斗の家に着くと、すでにいくつかの荷物が運び出されていた。美咲は、最後の瞬間を大切にしたいと強く思い、悠斗の元へ駆け寄った。「悠斗、手伝うことある?」と聞くと、彼は笑顔で「大丈夫、でも一緒に外で待っててほしい」と頼んだ。


二人は外に出て、しばらく静かに過ごした。周囲の風景が少しずつ変わっていく様子を見ながら、悠斗は「引っ越したら、新しい街でも頑張るよ」と言った。美咲は彼の言葉を聞きながら、少し不安になった。「新しい友達できるかな?」と心配になるが、悠斗は「絶対できるよ。美咲のこと、みんな好きになるから」と自信に満ちた声で言った。


その言葉に美咲は安心し、「私も、頑張るから!」と答えた。二人の目が合い、しばし無言の時間が流れる。その瞬間、お互いの思いが伝わるようで、切ない気持ちが胸を締め付けた。


「これ、受け取ってほしい」と美咲が言いながら、小さな包みを渡した。「何これ?」と悠斗が驚きながら包みを開くと、中には二人で撮った写真が数枚入っていた。「これ、私たちの思い出だよ」と美咲が微笑むと、悠斗は感激した表情を見せた。「ありがとう、こんなに大切なものをもらえるなんて…」と彼は言った。


「これからも、忘れないでね」と美咲は言い、悠斗は真剣な眼差しで「絶対に忘れない。美咲のことは、ずっと心の中にいるから」と約束してくれた。その言葉が、美咲の心を温かくし、少しだけ不安が和らいだ。


その後、悠斗の家族が荷物の積み込みを終えると、いよいよ出発の時が近づいた。「また会えるよね?」美咲が不安を隠せないまま聞くと、悠斗はしっかりとした声で「もちろん。また連絡もするし、遊びにも行くよ!」と笑顔で答えた。


二人はお互いにしっかりと手を握り、最後の別れの瞬間を迎えた。悠斗の目にも涙が浮かんでいたが、彼は力強く「美咲、頑張れ!絶対に幸せになるんだ!」と言った。その言葉が、美咲の心に響き、彼の存在がこれからも支えとなることを確信した。


「私も、悠斗のことを応援してるから!」美咲は涙をこらえながら答え、彼の手を離さなかった。ついに悠斗が車に乗り込み、出発の時が来た。美咲は彼に向かって手を振り、悠斗もそれに応えて手を振った。


車が走り去ると、心にぽっかりと穴が開いたような感覚が残った。しかし、彼との思い出が美咲を支えてくれることを知っていた。新たな一歩を踏み出すために、彼女は心の中で決意を固めた。


学校に戻った美咲は、仲間たちとの時間を大切にしながら、新しい挑戦に向けて前を向いて歩き出した。彼女の心には、悠斗との思い出が永遠に刻まれていることを感じながら。


美咲はこれからも夢を追い求め、自分自身を成長させていくことを心に決めた。そして、どんな困難があっても、彼との絆は消えることがないと信じていた。新たな道を歩き始めた彼女は、自分の未来を切り開いていく決意を新たにした。


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