第17話

文化祭の興奮が冷めやらぬまま、学校生活は次第に日常に戻っていった。しかし、美咲の心には新たな目標が芽生えていた。悠斗が提案した新しい曲に挑戦することにワクワクしながら、彼女は練習の日々を楽しみにしていた。


ある日の放課後、音楽室に集まったバンドメンバーたち。美咲は、悠斗が選んだ曲の楽譜を見ながら、「これ、すごくカッコいいね!」と興奮気味に言った。仲間たちも同意し、練習が始まる前から期待感が高まっていた。


「じゃあ、まずは各自パートを確認しよう」と悠斗が提案し、メンバーそれぞれが自分のパートをしっかり練習することに。美咲はドラムセットに向かい、リズムを刻み始めた。曲が進むにつれて、難しさと楽しさが交錯し、彼女の心が踊る。


「みんな、合わさるともっと良くなるよ!」と美咲が言うと、メンバーたちも「そうだね!」と賛同し、全員が一つになった感覚を味わっていた。


その日、練習が進むうちに、メンバーたちの演奏が少しずつ一体感を持ち始めた。美咲は、悠斗との呼吸が合うことを感じながら、彼の視線を何度も交わした。その瞬間、心の奥が温かくなり、二人の絆が深まっていることを実感した。


数週間が経ち、曲が完成に近づくにつれて、美咲は嬉しさでいっぱいになった。「この曲が私たちの次の挑戦だね」と仲間たちと共に確認し合った。みんなが楽しみにしているこの瞬間が、彼女にとって特別な意味を持っていた。


一方で、悠斗との関係もより親密になっていくのを感じていた。二人で過ごす時間が増え、お互いのことを理解し合うことで、無言のうちに心が通じ合っているような気がした。放課後、練習が終わった後は、一緒に帰ったり、他のクラスメートと遊んだりする時間が増え、二人の距離は確実に縮まっていった。


しかし、ある日、突然のトラブルが発生した。練習の日、美咲がスタジオに着くと、悠斗が何か悩んでいる様子だった。「どうしたの?」と心配して尋ねると、悠斗は「実は、バンドのライブに出られなくなるかもしれない」と言った。


美咲は驚いた。「えっ、どうして?」と問いただすと、悠斗は深刻な表情で「親の都合で引っ越さなければならないかもしれないんだ」と答えた。その言葉を聞いた瞬間、美咲の心に不安が広がった。


「それじゃあ、バンドも解散になっちゃうの?」と尋ねると、悠斗は「まだ決まったわけじゃないけど、もしそうなったら、俺はすごく悲しい」と言った。美咲の胸が締め付けられる思いだった。彼と一緒にいる時間が、どれほど大切なものだったのかを実感した。


「それなら、最後の練習を思いっきり楽しもうよ!」と美咲が提案すると、悠斗は少し安心したように微笑んだ。「うん、そうだね。最後まで一緒に頑張ろう」と言って、二人は練習を続けることにした。


その日、美咲は悠斗との最後の練習を心に刻むように、一生懸命演奏した。彼女は、どんなことがあっても彼との思い出を忘れたくないと強く思った。仲間たちも、一致団結して演奏し、練習の後には「またやろうね」と声をかけ合った。


練習を終えた後、美咲は悠斗に「引っ越しのこと、何か分かったら教えてね」と言った。彼は「うん、必ず伝えるよ」と約束し、お互いの目を見つめ合った。その瞬間、言葉以上の思いが通じ合った気がした。


美咲は、悠斗との時間が限られていることを痛感しながらも、彼との思い出を大切にしていくことを心に決めた。どんな結果になっても、彼との出会いは自分にとってかけがえのないものであることを強く感じていた。新たな挑戦が待っている中で、美咲は前を向いて進んでいく決意を固めた。


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