異世界転生者にチートスキルを乗っけるだけの仕事始めました。

蒼き流星ボトムズ

刺し身にタンポポ乗っけるよりも不毛な仕事

はい次の方。

地球からの転送ゲートから如何にもチー牛っぽい少年が出現する。



「うおおお!!! 異世界っ! 

ブヒヒw 異世界に転生出来るぞおお!!

ひょとしてアナタ!

神様っぽいポジションの人ですよね!?

チートとかハーレムとかくれる人ですよね!?」



チー牛は出現早々図々しい要求を突き付けてくる。

おいおい、キミさあ知らない人に出会ったら、まずは挨拶くらいしようよ…

その性格だと異世界で苦労するぞ。



『あー、ごめんね。

ハーレムは自分の魅力や能力で築くものだよね?

ここで付与するのはチートだけだから。』



確かに俺は神様業務に従事してるよ?

でもそれだけの理由で何で君に女まであてがわなきゃ行けないの?

大体キミみたいな不細工陰キャに抱かれるなんて女の子が可哀そうじゃない…



「そ、そうですかぁ…

ちっ! チートしか貰えねえのかよ! 

仕方ないですね、ハーレムは貰ったチートで作る事にします。

で、あのどんなチートが貰えるんですか?

ボク、心理操作系の最上位チートスキルが欲しいんですけど!」



おいおい、どいつもコイツも婦女暴行に悪用可能なチートスキルばっかり要求しやがって。



『あ、ごめんね。

キミを転生させるのは異世界の平和構築が目的だからね?

如何にも平和を乱しそうなチートは付与しないよ?』



「え!!!???

悪用なんてしませんよおお!!!!

ボクはチートスキルでささやかなハーレムを築いてスローライフしたいだけなのに!」



はい、アウト-。

建前でもいいから少しは欲望を隠せよ。

大体、女の子からしたら最も許し難い悪行だぞ。



『じゃあ、こっちで勝手にチート付与するね。』



「あっ!  ハーレm…」



『はーい、経験値100倍ねー。

一瞬で強キャラになれるよー。』



「え!? いや!?」



チー牛は如何にも不服そうな顔をしたが、俺は有無を言わさず異世界に放り込んだ。



「う、うわあああ!!!!」



情けない悲鳴を挙げてチー牛は異世界行きゲートに消える。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『あー、疲れた。』



俺は寝転がって自分で肩を揉む。

送られ続けてくる転生志望のキモオタにチートスキルを授けて異世界に送り込むのが俺の仕事である。


俺の業務はテラフォーミング。

もうすぐ地球を食いつぶすであろう人類が、次に移住する為の楽園を築くのが仕事だ。

この計画を極秘に遂行している財団に雇われて、この業務に就いている。


あ、移住する人類というのはこの財団を保有している超大富豪連中のことね。

(ちなみに地球上の富の95%以上をコイツらが保有している)

アイツらの口ぶりから見て、一般の地球人を一緒に連れて行く気はさらさらないらしい。

まあ異世界の情報を隠蔽している時点でそういうことだよね。


異世界にテラフォーム用の人柱として送り込まれるのは殆どが日本人。

理由は簡単で《自主的な異世界転移》を志願しているからである。

少なくとも無給で嬉々として地球を捨てるのは日本人だけらしい。

(家族との別れすら必要としていない。)

俺が神様役をしている理由も簡単、日本語ネイティブだからだ。

全人類の検索履歴や閲覧履歴を調べていくと、異世界行きの開拓奴隷の適任者は上位10万人位を日本人が占めているらしい。

世も末だな。

日本人と言っても、ここに来るのは弱者男性(たまに弱者女性も)ばかりなので、転生者が千人を超えた現在もさして我が国のGDPに悪影響をもたらしていない。



財団が《神に約束された箱舟の行き着く地》と呼称している異世界は地球の30倍強の規模を誇る広大な世界である。

当初財団メンバーはそこを楽園と信じ、自分たちのクローン体をありったけ投入した。

異世界人達が西欧風の顔立ちや名前をしている理由は、財団の構成員の99%以上がユダヤ・アングロサクソン系だからである。

(コイツらの常軌を逸した選民思想には日々ドン引きさせられる)

財団が貴重な地球資源を惜し気もなく異世界に費やしているのは、要は自分のクローンを守りたいからである。

現在の世界市場で鉄価格や銅価格が高騰しているのも、景況の活性化でも何でもなくコイツらが地球を裏切って自分の分身に資源を横流しし続けているからに他ならない。


彼らの言う《神託に応えた開拓》はすぐに頓挫した。

異世界には既に複数の知的生命体が割拠しており、彼らは地球人類よりも遥かに強悍で賢明だったからである。

当然侵略は失敗し、クローン達は地球から送られた広大な城壁の中に逃げ込み窮してしまった。

財団はピサロやコルテスになれなかった事に憤り、先住民たちを《魔族》(悪魔的種族の略称)と呼んで蔑み、クローン達に対して《魔族》の殲滅を命じた。


財団は先住種族達を《悪魔》呼ばわりした上に、各種族を自分たちの神話の悪役になぞらえて《コボルト族》やら《ゴブリン族》やら《オーク族》なる蔑称で識別した。

言うまでもなく殲滅を前提とした命名であった。


勿論、殲滅は難しい。

異世界の先住種族達はスペックが途方もなく高いのだ。

一番小柄なゴブリン族ですら平均身長5メートルほどのサイズの種族である。

平均体重7メートル超えのオーク族は異世界では鈍足種に分類されるが、それでも時速50キロ程度の走行能力を誇っている。

サハギン族はモーターボートよりも早く水面を走り、更には何年でも潜水し続ける能力がある。

空には体長200メートルを超えるドラゴンも珍しくない。

そしてこれらの種族は巨大なだけではなく繁殖力も鼠のように強かった。


地球人類など億弱な小人に過ぎず、どんな卑劣な手段で侵略を試みても魔族達に一蹴されるだけだった。

財団のメンバーは冷酷無比なサイコパスの集まりだったが、自分のクローンは余程可愛いのか特殊ビジョンを通して異世界の惨状を見る度に苦悶し号泣し慟哭し狂い転げた。

その後話題がアフリカや南米の飢餓対策に移ると、現地に利権を持っているメンバー以外は談笑してランチに向かうのだ。

もはや地球の支配者達にとって関心の対象は異世界情勢だけだった。



苦境の異世界戦線を打開する為に、地球の軍事技術、それも非人道的人体強化技術が大量に投入されている。

言うまでもなく財団は地球上の最新軍事技術を全て掌握していた。

(当然、異世界先住種族に対する核攻撃も財団の念頭に入っている)

中露以外の大抵の軍隊とは親密だったし、その二国に関しても汚職が激しいので親密国の軍部よりは交際費が相当安く済んでいたからである。


地球人類が生み出した非人道的人体強化術は日々更新されている。

実験台ならアフリカや中東に山ほどいるので、実験や検証には何の苦も無かった。


そう。

日本の異世界愛好者達が《チートスキル》と呼んでいる技術は、地球で発明された非人道的人体強化術に他ならないのだ。

そりゃあチートだろう。

いずれ南極条約で禁止されるであろうくらいにはチートだ。



財団は俺と転生者との対話を常に監視している。

その対話から彼らの願望や嗜好を分析して、それに沿った軍事手術を施して異世界に放り込む。

本人の願望に近い傾向の改造ならあまりストレスを与えずに済むからである。

改造されるのは肉体以上に精神。

好戦的で独善的、それでいて同種への服属心が強く権威に弱い性格に微調整される。

彼らは自分を選ばれし英雄と信じ、戦死するまで先住種族を笑いながら虐殺し続ける。

《討伐クエスト》と称して。


これが現在行われている異世界転生プロジェクトの邪悪極まりない真相であった。



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俺が授けたチートは下らないものばかりだ。


《空を飛ぶ》

《火を吐く》

《超怪力》

《暗視能力》

《スパイダーマンみたいになりたい!》


この程度の能力は軍事大国ならどこも20世紀中には保有している。

(特に旧ソ連はガチで凄い。)

資料だけなら陸上自衛隊上層部も極秘に把握している。

深刻な副作用さえ無視すれば全人類に施術する事も可能なのだ。

財団がチートスキルを異世界人ではなく、わざわざ日本人に授ける理由がわかるだろう?




【可愛いクローンにそんな非人道的な改造を施せる訳ないじゃないか。

前線には何も知らないジャップを送り込めば良い。

アイツらだって好きで異世界にいってるのだから感謝されても恨まれる筋合いはない。

まあ、アイツらが異世界に常軌を逸した愛着を持っているのは我々財団のメディアコントロールの賜物なのだがww


何重にも人質をとって神役をやらせているジャップ野郎には『異世界開拓成功の暁には名誉白人にしてやる』と言い含めているが、勿論嘘だ。 目的を達成すれば即座に始末する。

我々の楽園に醜悪なイエローの居場所がある訳がないじゃないかwwww】



財団の幹部が催すランチ会(まあ実質的な思想調査なのだが)には毎週招かれる。

俺は卑屈な作り笑い(東洋系には一発で見抜かれるのだがコーカソイドには見破れないらしい)を浮かべて、彼らが恩着せがましく提供してくる生臭いロブスターやらしつこいフォアグラなど大袈裟に頬張って毎度皿を啜った。



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今日も俺は神を騙って転生者を応対していた。



『へえお父さんが商社マンなの。

うんうん。

帰国子女で苛められて引きこもって

ラノベとかアニメが好きになったんだね。

ふーん、そうなんだ。』



ようやく。

俺はチートスキルを持つ者を引き当てた。

長かった…

彼に巡り合うまでに、どれだけの同胞を死地に送り込んでしまったか…



『えー?

キミもハーレム作りたいわけww?

みんな言うよねえw

いやいや、ホントホント。

キミ以外もみーんなハーレムって言うんだよ。

ちなみに女の子は悪役令嬢になりたがるね。

あははは、アニメの影響強すぎだよね。

《まあハーレムっていっても現地社会に溶け込めないと難しいけどね。》

だからみんなそっち系のスキル欲しがるんだよね。

こんなの基本だけどw』



異世界教養のある日本人同士なら、この文脈だけで察してくれる。



「えーw 

翻訳スキルはデフォルトじゃないんですかーww」



案の定少年は意図を汲んでくれる。



『ごめんごめんww

こんなものチートでもなんでもないよねえw

じゃあ上位互換でも付けとく?

楽勝でモテるよ?』



「お? 念話系っすか?

やだなーw  ラノベじゃくてエロゲの文脈じゃないっすかww」



『それを期待してたんだろーww』



「あははw バレちゃったww」



他愛も無いオタクトーク。

モニター越しの気配から推測するに、財団の連中は俺の意図に気づいていない。

日本人オタクが1人でも居れば、今のが誘導だって絶対にバレるんだけどな。



『じゃあ念話系統一式を付与しとくわ。

悪用すんなよーーww』



「えー?

ハーレムは悪用じゃないっすよねww」



話の途中にも関わらずゲートが発光し始める。

よし、これは財団が俺の提案するスキルをそのまま承認した証拠。

これでこの少年には強力極まりないテレパシー能力が付与された。

ロシアからの帰国子女であるが故に【ロシア語会話】のチートスキルを持つこの少年に、だ。


パーツは既に揃っている。

これまでに俺が転生者のチート能力を通して

・財団本部の座標

・中枢メンバーの大半が集まる日程

・財団メンバーの名簿を入手する方法

を入手していたからだ。



俺は寝室で布団を被ると帰国子女少年にテレパシーで詫びを入れる。

残留思念がどうたらこうたら、という射程距離無限のテレパシーらしい。

(凄いね軍事技術。)

丁度、彼は異世界の人類地区に降り立って小休息していた。




「あーあ。 夢にまで見た異世界の真相がそれって、かなりキツいっすね。

あれでしょ? フリーメイソンとかノアの箱舟とかああいう系列の。」



『ごめんな。 

俺も人質を取られている。

いや、勿論それが免罪符にはならないけど。』



「で?

僕は何をすればいいんですか?」




後は話が早かった。

俺を中継装置にして、少年がテレパシーでクレムリンに財団の情報をやや誇張して流す。

ロシア語が話せる上に、生まれた時からずっとモスクワで暮らしてた彼でなくては不可能なミッションだっただろう。


やや残酷な話だが、少年にはフル稼働して貰った。

中継装置の俺がこんなに苦しいのだから、テレパシーを発信している少年はもっと苦しんだだろう。

少年は血反吐を吐きながらウラジミール・プーチンを含むクレムリンの要人達一人一人に事態の説明を行い、4日目の朝には死んでいた。

瀕死の俺は少年の残留思念を通じて直近の財団のスケジュールをクレムリンに流し続けた。


6日目。

《テロリストの基地への空爆》という名目で突如ロシア空軍がEU圏内の某地中海都市に広域爆撃を敢行した。

周辺海域に浮かぶ幾つかの船舶も全てドローン攻撃で撃沈された。

国際社会は激しく抗議するも、ロシアは《ウクライナ戦争を引き起こしたテロ工作拠点への攻撃であり正当防衛である》の一点張りで受け付けなかった。

財団は当然、ウクライナ戦争にも大きく関与していたので、あながち見当外れではない。

ロシアは拿捕した船舶から発見された大量の核物質の存在を激しく批難し、旧東側諸国に団結を執拗に呼びかけた。

彼らは長期戦に慣れていた。

その後も西側大富豪が暗殺される事件が頻発し、ロシアへの経済制裁に端を発した世界のブロック化は完全に固定された。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




異世界ゲートの門前に倒れ伏しながら、俺は勝利を確信する。

現状を確認する術こそ無いものの、どう考えても今回の空爆と俺の体調不良には関連性がある。

即座に尋問しなければならない場面なのだ。

にも関わらず、誰も俺の身柄を抑えに来ない。

定時通信は途絶えたし緊急ブザーにも反応はない。


悪は滅びた!





吐いた血に顔を埋めながら、俺は勇者を称え、世界の救済を祝福して死んだ。

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異世界転生者にチートスキルを乗っけるだけの仕事始めました。 蒼き流星ボトムズ @botomuzu

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