西暦697年4月 三成 下道家の屋敷2
阿止理は、奈良の藤原京まで足を延ばし孫美との約束通り、色々情報入手して、その後、吉備津で猪手と会い、その後、三成まで戻って来た。
下道家の屋敷で、孫美と話していた。
「都はどうでした?」
阿止理は、孫美には、依頼通り朝廷の動きより、あえて民の話をし始めた。
「民にオハグロが流行っているそうです」
「オハグロ?」
「歯を黒くする事です」
「
「黒歯国の事は分かりませんが、都の女性たちが歯を黒く染める事を行っています」
「歯の治療で、カネと呼ばれる液で歯を黒くすることは聞いたことがありますが、それではない?」
「はい。歯並びを良く見せるのは、化粧の一環みたいです」
「歯を黒くして、美しく見えるものですか?」
阿止理は、苦笑いして答えるしかなかった。
「私に聞かないでください。都の女たちの話です。私は顔の真ん中に洞穴があるみたいで嫌いです」
「洞穴……」孫美もあきれ返った。
八木姫が部屋に入って来た。
「洞穴がどうかしたのですか?」
「はい。阿止理殿と都でオハグロが流行っている話をしていました。歯を黒くすると、顔の真ん中に洞穴がある様に見えると」
八木姫は笑いながら答えた。
「顔の洞穴は聞いたことがありませんが、オハグロは聞いた事があります。都ではそれほど流行なのですか?」
阿止理は、八木姫は孫美より若いだけあって、流行に敏感だと思った。
「はい。両極端です。オハグロを積極的に行おうとする人と、毛嫌いする人がいます。どちらかと言うと、年齢が行くほど毛嫌いするようです」
「高齢者になればなるほど、変化を嫌うものでしょうからね」
「はい。その高齢者ですが、猪手たちにも変化があります」
「猪手殿?」
「はい。猪手も高齢で体が弱っています。腹の病もあるみたいです」
「そうですか。刀良殿に続いて猪手殿もですか」
「実は、私に継ぐように依頼がありました。」
阿止理に、入鹿たちから、猪手の後を継ぐように依頼があったが、今までの行動から一カ所に留まることはできない性分になっていたので、彼らを外から支えることで納得してもらっていた。
「それで、吉備津彦殿に関しては、都での収穫はありましたか」
「はい。吉備津彦殿そのものではありませんが、丑寅みさきの祟りは噂になっています」
「どんな噂ですか」
「昨年の夏にあった吉備津彦殿の屋敷での『マムシ騒動』です。あの騒動は、猪手の若者たちが、あちこちの民からマムシを集めて屋敷に放り込んだだけの話なのですが、予想以上にマムシが集まりすぎて、屋敷では大変なことになったとか」
八木姫も笑いながら答えた。
「私たちも聞いています。屋敷で十人以上が亡くなったとか」
「都では、話が大きくなっています。頭が八つある大蛇が屋敷を襲い、吉備津彦が
「
「はい。なぜ、そうなった分かりませんが、口の悪い人たちは、吉備津彦は腰抜け将軍だと呼んでいます」
「吉備津彦殿も
「入鹿達は、今度はムカデにするかと騒いでいましたので、調子に乗りすぎない様注意しました」
「なるほど。もう少しすると、大きな動きになりそうですね」
「それはどういう……」
八木姫は、ただ微笑んでいるだけだった。
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