結 釜鳴神事

学習会4回目 西暦2025年8月4日

今日で最後です。

『吉備津彦-温羅伝説』の後半、守り神になる話です。


******

吉備津神社の釜殿の竈の下家にある、髑髏の唸りは、13年の間止まらず鳴り響いた。

ある晩、吉備津彦の夢に温羅が現われた。

「吾が妻、阿曽姫アソヒメに、釜殿で供物として神饌しんせんを炊かせよ。

何かあれば、炊いている竈の前で占え。

吉であれば裕かに鳴り、凶であれば荒らかに鳴るだろう。

吾は使いとして民に賞罰を加えん」と告げた。

******


まずは、『髑髏の唸りは、13年の間止まらない』

『13年間』に関しては、別に12年でも14年でも良かったはず。

西洋の忌数いみかずの13から来ている訳ではありませんが、日本でも13を特別な数としていたらしいので、そこから来ていると思われます。

『13 年』の13は、12+1 、きまりのよい12 (12ヶ月)に余りを追加したもの、つまり、長い年月の意味と思われます。

そして、『髑髏の唸り』は、釜鳴神事の釜の唸りに合わせたものでしょう。

釜で米を蒸すと釜から急に音がして暫くすると止む。火を弱めると再び一定時間音がする。

何も、知らない人にとっては不思議だったのでしょう。

この「釜鳴」は、円筒形の釜で米を蒸すと、水蒸気が起こす「レイケ菅共鳴」と呼ばれる共鳴現象です。

何も、知らない人にとっては不思議だったのでしょう。

簡単に言えば、トリックを神事としている……

これ以上は、吉備津神社から怒られる可能性がありますので、止めます。


要するに、『庶民が不安に思っていた』または、『庶民が騒いでいた』という内容でしょう。

そうでなければ、13年間唸り続けていたものが、急に夢に現れて守り神になると言うのは唐突すぎます。


『使いとして民に賞罰を加えん』

これは、『丑寅みさき』として知られた内容です。

ちなみに、この『丑寅みさき』は、通元々は艮御先だったようです。

『艮』は東北の方向の事です。『鬼門』の方向と言われていますが、後付けでしょう。

もともとは八卦の『ゴン』と呼ばれる漢字で、山を意味しています。安定、不動、阻止、静止を表しています。

保守的なイメージでしょうか。

『御先』は先触、使いの意味です。


『賞罰を加る』もっと言えば、『鬼が罰を与える』ことは、平安時代に後白河法皇が編集した梁塵秘抄りょうじんひしょうに、『丑寅みさき恐ろしや』の記述があります。

賞も与えるが、場合によっては罰も与えるおそろしい使い(神)にもなるということです。

しかし、面白いのは、そのおそろしい『丑寅みさき』の伝説類での具体例がほとんど見当たらないことです。

『丑寅みさき』つまり温羅を『おそろしい』と周りの言っていながらも、実際は恐ろしく思っていなかったと思えます。

まとめれば、『不安定な変化があれば、それを防止する使いとして現れる』と言うことでしょう。


『妻に炊かせよ』 要するに、『妻に仕事を与えよ』と言っている訳です。

もっと端的に言えば、『阿曽姫に代表される庶民に仕事を与えよ』と言っている訳です。

これで、『13年間の唸り』の意味が通じます。


『結』を現代風に書き直すと、

『民衆は温羅を慕って騒ぎ続けたので、吉備の統治者は民衆に仕事を与えた』

となります。


前回ホラーと言いましたが、結果的には、ラブストーリー形態をとったハッピーエンドです。

全体を見ると、戦いの後、ハッピーエンドを追加している訳です。

庶民の幸福を温羅が応援しています。

つまり、この『吉備津彦-温羅伝説』は、表面上は吉備津彦を称える物語としていながらも、その本質は温羅を賛美する内容です。


『桃太郎物語』は、鬼の資産を強引に奪うので法律上も問題のある物語となり、現在では子供向けに苦渋の変更を行っています。


しかし、『吉備津彦-温羅伝説』は、一部にSFやホラーの要素を含みながらも、ハッピーエンドの物語と言えます。


このハッピーエンドになるという結論で、この学習会の締めにしたいと思います。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る