西暦682年9月 下家の庄屋 離反
いつもの様に、阿止里がつまみ食いをしようと厨に入ると、多智麻呂が女中たちと騒いでいた。
多智麻呂は握り飯をほおばりながら、阿止里に言った。
「いつ来ても、ここの飯はうまいな」
「あのな 女の尻を触りながら、米粒飛ばして話すな」
「いや~ これから忙しくなるので、尻の触りだめをしておこうと思って」
そう言いながら、多智麻呂は阿止里に向き直った。
「実はな、長たちとの連絡役として伊佐勢理に雇われた」
「多智麻呂 お前、温羅殿に仕えていたのではないか?」
「数日前、雇われた」
「節操のない、尻軽だな」
「そうよ。だから、今、尻を触っている」
そう言いながら、多智麻呂は女を追いやって、小声で言った。
「温羅殿の指示だ」
「えっ と言うことは……」
「声が大きい。温羅殿の最後の指示だ」
阿止里は、一瞬、彼が何を言いたいか分からなかった。
「それを言いに来たのか」
「ああ、刀良様を含め長たちに伝えに来た。この後、町に繰り出してどんちゃんさわぎだ」
そして、より小さな声で続けた。
「騒いで、伊佐勢理の評判を落としてやる」
そう言いながら、指についている米粒を舐めた。
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