第8話 親子

 今朝は施設がざわついていた。授業が開始する時間になっても、教室に来ない指導員を待ちながら、少年は考えていた。

 教室に来るまでに、慌ただしく走り回る大人を見ていた。今まで見たことのない光景に、少年は違和感を覚えていた。


 授業が終了した後、指導員から説明があった。今日は、ギフトの発現確認検査があるようだ。ギフトの発現検査は、通常1年に1度しか実施されない。今年の検査は終わっていて、少年にギフトの発現は確認されなかった。


 いつもなら、この検査はギフトを発現していない者だけが対象となるが、どうやら今回は全員が検査の対象となるらしい。

 その理由は、今回ギフトの確認検査を行う人物にある。その人物の鑑定のギフトは特別で、人を見ただけで100%完璧に、ギフトの効果を把握することが出来る。


 相手のギフトを完璧に把握出来る、鑑定のギフトを持つ者は世界に4人しかいない。そのため普段は、世界中を飛び回って、優秀なギフトを持つ者を探しているようだ。


 いつも来ていた、鑑定のギフトを持つ女性は、一度でもギフトを無意識にでも使ったことがある人のみ、見ることが出来たようだ。


 今日の検査の目的は、全員の正確なギフトを把握することのようだ。


 検査が行われるのは、いつもと同じ部屋。いつも通り周りには、警護の人間がいる。世界に4人しかいない、超貴重な人材を招いた部屋には、緊張感と痺れた空気が流れている。


 「よろしくね。じゃあ、体の力抜いてリラックスしてね」


 「はい。お願いします」


 少年は、言われた通り体の力を抜く。年齢は30代前半くらいだろうか。毎年検査を行う女性とは違い、カジュアルな服装だ。男は少年に顔を近づけて、ギフトを確認する。


 「ごめんねー。顔近くないと、よく見えないんだぁ」


 「ああ、はい」


 「んー、目瞑ってもらってもいいかな?」


 少年はいつもの女性と全く違う検査の仕方に驚きつつも、似たようなことをしてくる、鑑定の少女を思い浮かべる。


 「分かりました」


 少年は指示通り目を瞑る。暗闇の中、少年は自分のギフトがようやく判明することに、少しワクワクしていた。


 「おー。え?ああ、え?おお!えっ!?えっ?えっ!?」


 男の困惑しているような声を聞いて、少年はまぶたをピクピクと震わせ、体のこしょばゆさに耐える。


 「あっ!もう目開けていいよ。ありがとね」


 男は少年の足先からつむじまで、じっくりと眺めて、顎に手を当てて首を傾げながら唸る。


 「うーん。ちょっと待ってね」


 そう言って男は、後ろに立つ警護の人間を呼ぶ。男が警護に何やら耳打ちした後、慌てた様子で警護は部屋から飛び出して行った。


 それから程なくして、少年は部屋から連れ出され、ある場所に導かれた。その場所は牢屋。何の説明もなく、牢屋に入るように指示された少年は、抵抗せずに大人しく従った。

 牢屋は悪いことをした人間が入れられる場所。そんなことを考えながら、少年は牢屋のベッドで横になり目を瞑る。

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