家に帰ると甘えたがりな幼馴染が待っている

焼鳥

家に帰ると甘えたがりな幼馴染が待っている

「疲れた....」

バイト先で急な欠員が出てしまい、学校から直で働き、現在は夜の9時。

連絡は入れたので大丈夫の筈だが、今日の当番は俺なので、迷惑をかけてしまった。

それでも倒れるわけには行かない。

何故なら、

「ただいま~。」

「おかえり梓。」

可愛い俺の幼馴染が待ってるからだ。


「美味い。」

「どういたしまして。」

「ごめん雫、今日は俺の日だったのに。」

「大丈夫だよ。その分二日間頑張ってね。」

「はい。」

彼女は東条雫とうじょうしずく、幼馴染で現在進行形で同棲してる仲だ。

同じ高校生だが、彼女は上澄みも上澄みの所に通っており、俺とは大違いである。

俺こと佐藤梓さとうあずさは中の下の高校に通っている。実家から通うには遠すぎる高校しか選べなかったせいで、一人暮らしをする筈だったが、二人で生活をしている。

「ご馳走様、食器は俺がやっとくよ。もうこんな時間だろ雫は風呂入れよ。」

「うん、じゃあお先貰います。」

食器と調理器具を洗い終え、廊下のカーテンを閉める。

借りている部屋が元々一人暮らしを想定されている家なせいで、仕切りが無く、廊下に併設されている風呂場が部屋から見えてしまうのだ。

そのせいで住み始めはその、ので閉める癖がついた。

「こんな所かな。」

明日の朝食用のご飯を予約、余り時間に今日の残りを小分けして冷蔵庫に入れる。

雫は長風呂の人なので、彼女が出るまでパソコンでゲームでもしていよう。

「梓、ちょっといい。」

「どうした。」

どうやらバスタオルが取るのを忘れたらしく、取って欲しいようだ。

持っていく風呂場の扉から少しだけ雫が顔を出しており、俺を見るとはにかむ。

「ごめん、また忘れた。」

「お前な...女の子なんだから少しは気を付けろよな。」

「えへへ。」

渡すと直ぐに扉は閉まり、中から擦れる音が聞こえる。

「いや何聞いてたんだ俺。」

変質者でしかないのでそそくさと部屋に戻り、ゲームを再開する。

雫はガードが凄く甘い。高校での彼女は知らないので外でも同じなのかは分からないが、家ではそうだ。裸で部屋に戻ってきた時はどうしようかと思ったほどだ。

雫からすれば俺は信頼されているのか、人畜無害な生き物かのどちらかなのだろう。

「少しは俺の気持ちを考えてもいいよな。」

「考える?」

「ぎゃあ!」

叫んだせいでビクッと雫が固まってしまう。

「すまん、部屋戻ってたのか。じゃあ風呂入るわ。」

「いってらっしゃい。」

全ては聞かれていなかったのが不幸中の幸いだ。それにしてもパジャマ姿はいつ見ても慣れそうにない。そりゃあ距離感が近いせいで甘い匂いはするし、目が合う度に笑顔になる彼女を見続けたらどんな男で好きになる。

そう好きになるのだ。

「耐えるしかないよな。」

俺は正直チキンだ。拒絶されたらそれこそ立ちなれそうにないし、今の生活が終わってほしくないと思ってる。

「ズルいよな俺。」

風呂に漬かりながらそう思うのだった。


「何のゲームやってるの。」

「ホラゲーだけど。」

「そう....」

今やってるのは最近リメイクされた名作のホラゲーだ。雫はこういうゲームは好きじゃないので、隣で見るか迷ってるようだ。

「無理して見なくていいんだぞ。苦手なものに挑むのは構わないけど。」

「でもまだやるんでしょ。」

「まぁやるけど。」

明日が休日という事もあり、区切りが良い所までやりきろうと考えている。

一応遮音と遮光の二重カーテンがパソコンが置かれている所の前に設置しているので、彼女が寝るのならカーテンを敷いて静かにやるつもりでいた。

「見る。」

「お、おう。」

雫は俺がアニメを見たり、ゲームをしてると隣に座って一緒に見る。

俺は実況とか見る人なのでその楽しさを知ってはいるが、俺のプレイなんて見ても楽しくないと思うのだが違うのだろうか。

「あずさ~。」

「来てるよ!来てる!!」

「此処暗いよ。早く先行こうよ。」

ゲームの画面を見ては全てに反応し、その度に良いリアクションを雫が取る。

しかも怖がって俺に抱き着いたりするせいで、ちょくちょくプレイキャラがやられるので、またセーブポイントからやり直しになる。そのせいでまた彼女のリアクションが見れるというループに陥る。俺としては嬉しいけれど。

「うう....梓~。」

「分かってるよ。あそこのアイテム取ったら終わるから。」

目的のアイテムを取り終えたと同時に上からクリーチャーが落ちてくる。

「!!!~~!!!???」

所謂ビックリポイントなのだが、案の定彼女は慌てふためき、俺にしがみつく。

可愛い雫が見れるので嬉しいが、問題が別に生まれる。

雫は気づいていないのだろうが、彼女がくっつく度に胸が俺の腕に当たっているのだ。正直来るものある。

「梓?もうアイテム取れたよ、早く寝よ。」

「うん、ちょっとだけ待ってくれ頼む。」

ごめん雫、俺も男の子なんです許して。


「おやすみ。」

「おやすみなさい。」

部屋が狭いので、布団を敷くと必ずくっついてしまう。なので、寝る時は可能な限り布団の端で梓は寝るようにしている。また本人は非常に寝つきが良く、直ぐに落ちる。しかも一度落ちると朝までまず起きない。そしてその寝つきの良さは雫も気づいていた。

(寝たかな?)

雫は梓に比べると寝つきは良くなく、まず梓より後寝る事になる。

なので、毎回梓を布団の端から動かし、布団の境目に彼を移動させる。

「あずさ。」

そしてそのまま彼の胸に抱き着き、そのまま眠りにつく。

「大好きだよ梓。ずっと一緒にいたい。」

彼に絶対に聞かれないこの時だけ、彼女はそれを口にした。

梓と雫が二人暮らしを始めたのは、雫が原因だ。

彼女の両親は海外出張が多く、家に居ない時期の方が多い。雫の大切な日には家にいるが、それでも数日しかいられない。

そんな中二人が高校に上がる際に、梓が一人暮らしする話が舞い込み、しかも借りる部屋が雫が通う高校から近距離ときた。雫を一人にしたくない彼女の両親は梓の両親に頼み、「それなら!」と一番聞かないといけない梓には何も聞かずに話が進み、気づくと二人で暮らす事が決まった。

この話が梓に届いたのは全てが終わってからだった。

彼からすれば私は急に出来た居候のようなものだ、だからこそ彼を困らせたくない。

この気持ちは胸にしまい、この生活が終わるまで彼に甘えまくると決めた。

それでもせめて、彼に聞かれないこの時だけは想いを口にしてもいいだろう。

「あったかい。」

今日も彼の胸の中で眠りに落ちるのだった。


「朝か。今日は休み、まだ寝て・・・またか。」

胸の中でいつものようにすやすやと寝ている雫を見て、頭を抱える。

下手に動けば彼女を起こしてしまうし、かと言ってこの状態を続けるわけには行かない気持ちもある。

「あずさ?あ・・おはよう。」

少し動いたせいで目を覚めてしまい、寝ぼけながらも目が合う。

「もう少しだけ....」

けれど睡魔に打ち負けたらしく、そのまま自分の胸に顔を埋めてしまう。

(動けん!つか下も見れない、見たら色んな意味で人生が終わる。)

雫は普通の女性より細い、なので服が若干ブカブカだ。それは下着も同じなわけで。

、見えてしまうのだ。

梓も男だが、ラインは弁えている。だからこそ完全に動きを封じられる。

(頼む!起きてくれ雫。色々と限界を超える前にーーー!!)

半ば気絶という形で梓は二度寝するのだった。


「ごめんなさい。」

「いや起こさなかった俺も悪い。」

結局昼過ぎまで寝てしまい、遅めの朝食になってしまった。

「飯食ったら用事あるから夜まで帰ってこないわ。」

「晩御飯は?」

「作る。」

食べ終えるとパパっと支度し、梓は外出してしまった。

食器も洗ってくれたので雫がすることはなく、手持無沙汰になる。

ならやることは一つ。

「♪~。」

梓が普段使いしているパーカーを羽織り、部屋の真ん中で回る。

自分より大きい男性用のパーカーなので、服の袖から手が出ることはない。

でもそれが女の子からすればチャープポイントになる。

「Yシャツがあればな。」

梓が通う高校は私服が許可されているところだ。大事な行事の時ぐらいしかYシャツを着ない。なのでタンスから引っ張り出せば直ぐにバレてしまう。

それでも好きな人が着てる服を満喫出来るので文句は言えない。

「梓何もしてくれないな....」

高校の友達に一度相談したことがある。

男女が二人っきりで生活しているのだ、一つや二つぐらい過ちを犯しても良いと思うのだが、彼はそういうのは一切見せない。

「いっそ『したい!』とか言えばいいのに。」とか言われたけど、そんな恥ずかしい言葉は梓には言えない。口にしようものなら爆発してしまう。

(やはりアピールが足りないのかな。)

くっついたり甘えたりは出来る、でもそれより一歩先となると・・恥ずかしい。

「でもそれが出来ないとダメなんだろうな。」

カーペットをゴロゴロしながら悩み続けるのだった。


「梓は彼女欲しいとかある?」

今日は久々に友人とアスレチックに行くことになった。

目的地に着くまで皆暇なので雑談していたのだが、話題が「彼女欲しいか」

に移っていた。

「今はいいかな。下宿してるとやらなきゃいけない事多くてそこまで回らないわ。」

「だよな〜。俺もイケメンに生まれてたらきっと女性にチヤホヤされてたのに。」

「梓にそれ言っても仕方ないだろ。」

遊ぶ友人は女性と関わりが無い奴らなので、俺が雫と二人ぐらししてるのは秘密にしている。ふとした時にバレたら洒落にならないので、基本的には家の話はしない。

「あっちから甘えたりイチャイチャしてくる彼女欲しい〜。甘やかしてほしい。」

「欲望ダダ漏れだぞ。そう言う話だと梓はどんな人が好みなんだ。」

「俺は....。」

雫しか眼中に無いので考えたことが無かったが、話を振られて思い耽る。

「自分の趣味に干渉してこなくて、分かりやすい子が好きかもしれん。」

「なんかそういうの梓好きそうだしな、分かるわ〜。」

「理想の女の子に出会えてえよ。」


来てるメンバー俺以外は皆運動部に所属してることもあって、施設のアスレチックを難なくクリアしていく中で、俺はヘトヘトになりながら着いていく。

「お前ら早いよ。」

「梓はもう少し体動かさないといざという時、女に飽きられるぞ。」

「それは嫌だな。」

ゲーム三昧の引きこもりに体力を求めるなとは思うが、少なくとも後2年以上は雫と居るのだ、健康体を維持するのはやっといた方が良さそうだ。

結局夕方になるまで休まずに動き、一日でアスレチックを全てクリアした。

「もう、動けない。」

「梓お疲れ!いやよく頑張ったわ。」

「お前明日の学校大丈夫か?筋肉痛で体動かないと思うぞ。」

「多分動かない。」

それでも今日まで俺が当番なので、家には帰りたい。

それでも立って電車に乗りたく無いので、友人達と相談し、各駅でゆっくり帰る事にした。

(19時前には着きそうだけど、遅れたらヤバいから連絡しとくか。)

スマホで諸々を雫に伝えると、『気をつけてね』と返ってくる。

そう言われたら安全に帰るしかなくなる。

隣を見ると、俺よりかは体力があるがやはり限界だったのだろう。友人たちは中良さそうに寝息を立てている。俺も眠気が襲ってきているが、全員寝ると寝過ごしそうなので、頑張って目を開ける。

「今日の晩御飯どうしよう。」

雫が好きな料理を作ろうと考えているが、雫はどれを出しても「美味しい!」と言うタイプだ。何が良いか聞くと「なんでもOK!」と答えるタイプなので優しくない。

「まぁハンバークとかで良いか。」

駅前のスーパーならまだ食材残ってそうだし、俺みたいな雑な人間でも美味いのが作れるのでありがたい。

そうこうしてるうちに乗り換えの駅に着き、全員で降りる。ここからは各々帰り道が違うのでここで解散だ。

「じゃあまた明日。」

「梓死ぬなよ。」

「全員お疲れ。」

なんだかんだ解散の際には皆ダラダラ残らない方々なので、楽な気分で家に帰れる。

「ていうか服汗まみれで臭い気がする。」

一応毎日シャワー浴びてるのでネットとかで見るような臭さでは無いと思いたいが、雫に嫌な顔されたら凄い傷つく。帰りのコンビニで汗拭きシートでも買ってから帰るとしよう。


「ただいま。」

「おかえり梓。・・・凄いお疲れだね。」

顔に出してないつもりだったが、予想以上に分かりやすかったようだ。

「今日は遊び尽くしたからな。」

「お疲れ様。」

流石にこのまま料理というわけには行かないので、シャワーを浴びる事にした。

「梓はお疲れのようなので、私もお手伝いします。」

「いやしなくても良いけど。今日はハンバーグだし。」

「そういう時は素直に好意を受け取るもんだよ。」

「・・・・分かった、手を貸してくれ。」

とはいってもハンバーグと合わせの料理を作るだけなので、難しい事はしない。

なので雫が手が空いた時に俺の隣にくっついて甘えてくる。

「まだ?」

「中まで焼かないと危ないしな。串で確認はしてるけど、安心して食べたいだろ。」

「梓が作る料理みんな美味しいから楽しみ!」

「まだ出来ないから待ってろ。」

隣に立つ雫の頭をポンポンと叩くと、そのままされるがままに彼女は目を閉じる。

多分撫でてほしいのだろうが、少し恥ずかしい。

少し悩んでいるとしてほしいと言わんばかりに頭を擦り付けてくる。

(分かりやすいんだから。)

観念して頭を撫でると嬉しそうにしながら、彼女は撫でられ続ける。

「♪〜。」

気持ちが良いのか、言葉にしないが声が漏れている。それに当人は気づいていないせいで、気づいてるこっちがもどかしい。

そのままにしていると、雫が俺の手を掴んでそのまま頬に移動させる。そして今度は雫の方から手にスリスリし始め、心地が良いのか先ほどよりも声が漏れる。

「なぁ雫。」

「ん?」

「それ他の人にもしてるのか。」

「してないよ。」

その一言で梓も限界を越えたのか、顔を真っ赤にする。

手を離そうとすると、雫がしょんぼりしてしまい、慌てて戻すを繰り返す。そんな事をしてるせいで焼いていたハンバーくがどんどん焦げている事に気づかず、気づいた頃には救えないレベルになっていた。


「すまんやらかした。」

「ごめんなさい.....」

お互いに非があるせいで少し気まずい晩御飯になってしまった。

それでも合わせの料理は上手くいってるので最低限のラインはクリアしているのがせめてもの救いだ。

「それにしても表面だけで済んでよかった。完全に炭にしてたらマジで立ち直れなかったかもしれん。」

皿に装う際にナイフで表面を削ったので、当初の予定よりも小さくなってしまったが、食べれはする。雫は少食なので小さいのを作ってはいたが、更に小さくなったせいで皿に対して比率が凄い事になっている。

「まぁ食えてるからよしとしよう。」

「うん!」

雫が料理を口にする度に美味しそうにしてくれるを見て、作った甲斐があるというもの。失敗はしたが、それを見れたのなら満足だ。

「明日は何作るの?」

「飯食ってる最中に聞くか普通....未定だ。明日の俺の気分次第。」

「寒いしカレーがいいな。」

「いいな。それなら作り置きできるし、朝には卵入れればトッピングも増やせる。」

最初はお互いに口数が少なかったが、それも一瞬だ。少しすればいつものように二人で楽しそうにご飯を食べる。

「「ごちそうさまでした。」」

食器は基本的に当番が洗うが、今日は事が事だったので雫も洗うと言い出した。

「明日学校か〜。」

「俺絶対に起きれない。」

「その時は起こしてあげるから。」

ポンと胸に手を当てる彼女を見て、堪らず吹き出してしまう。

「そういう雫は俺より起きるの遅いだろ。」

「それは家出る時間が遅いからで!」

遅刻はしたくないので、雫に起こされないように頑張って起きると決めた梓だった。



「おやすみなさい。」

「おやすみ雫。」

いつも通り少しすると彼から寝息が聞こえ始める。

彼をこちら側に移動させると、昨日と同じように胸に顔を埋める。

(また明日になれば梓との時間が減る。明日が来てほしくないな。)

この生活も高校生活が終わると同時に終わりを告げる筈だ。

せめて少しでも梓と一緒にいて、あよくば高校が終わった後も一緒にいたい。

でも梓と私の志望はきっと違うから、一緒に住み続けるは難しい。

「それでも。」

「おかえりだけは貴方に言い続けたい。」

彼には絶対に聞かれないように小さく呟く。

(だからもう少しだけ。)

先ほどよりも強く彼に抱きつく。

「甘えてもいいよね。」


もう暫く甘えたがりの生活は続きそうだ。

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